開発者インタビュー:Iさん 
一包化可能なOD錠

対談テーマ

~一包化可能なOD錠~

OD錠とは「Orally Disintegrating Tablets」の略で、日本語に訳すと口腔内崩壊錠、つまり口の中で溶ける錠剤のことです。一包化できるOD錠とはどんなものなのか、なぜそれを開発することになったのか、開発者のIさんに尋ねてみました。聞き手は社長室のS部長です。

ナナコ

製剤開発部のIさんに
「一包化可能なOD錠」の開発について聞いてみました。

インタビュアー

社長室 部長 Sさん

開発者

製剤開発部 Iさん
2011年入社

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そもそも、一包化とはどんなものなのでしょう?
そして、どういう理由で一包化に着目したのか知りたいですね。

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ではまず、一包化について、どういうものなのか教えてください。

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はい。一包化とは、2種類以上の錠剤やカプセル剤を「朝の分」「昼の分」「夜の分」と服用時点ごとに分包する方法です。

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なるほど。いくつかの種類の薬を1つにまとめるのですね。このように一包化すると、誰に、どんなメリットがあるのですか?

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一日に多くの薬剤を服用される患者さんや、そのご家族です。服用時点ごとにまとめてあると、まずは薬の飲み忘れ防止になります。
それから、取り出し性の向上にもつながりますね。例えば高齢者など、PTPシートから薬を取り出す作業が困難な方もいらっしゃいます。でも一包化されていれば、袋を開けるだけで薬をまとめて取り出すことができます。

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確かに一包化されていると便利ですね!このように一包化可能なOD錠を開発しようと思ったのには、何か理由があったのでしょうか。

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開発を目指した先発製剤は、凍結乾燥型の口腔内崩壊錠でした。この製剤は、服用性は優れていますが、錠剤は脆いため、一包化はできません。そこで先発製剤との差別化を図るために、一般的な錠剤と同じように一包化できるOD錠を開発しようと思いました。
取り扱いが容易になれば、一包化調剤をおこなう薬剤師さんにとっても利便性があります。

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忙しい薬剤師さんにとって、取り扱いやすいという特徴は作業効率の向上にもつながりそうです。ところで、凍結乾燥型の口腔内崩壊錠…とのことですが、凍結乾燥型の口腔内崩壊錠と開発したOD錠の違いを、もう少し詳しく教えてもらえますか。

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簡単に言うと、凍結乾燥型の口腔内崩壊錠は口どけは非常にいいのですが、硬度が低く脆いので、服用直前まで包装した状態で保管しておかなければいけません。ですから一包化できないのです。
でも、開発したOD錠は、一般的な錠剤と同様の取り扱いが可能ですし、唾液だけで速やかに崩壊します。食品で例えるなら、凍結乾燥型の口腔内崩壊錠がフリーズドライのみそ汁で、日医工のOD錠はラムネといったところでしょうか。

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フリーズドライのみそ汁とラムネ、それは分かりやすい例えですね(笑)。

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設計から実生産まで、苦労する点も多いのでしょうね。
1つの製品がどういう流れで開発されるのか興味があります。

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ここからは開発にまつわる話を聞かせてください。最初に、Iさんが所属している開発企画本部の製剤開発部について、仕事の内容や流れを教えてもらえますか。

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まずは「この製剤の後発品をつくる」という企画があり、それに合わせて初期の処方設計をします。さらにラボで試作をおこない、パイロットスケールの製造までを担当しています。
処方設計は特に重要な業務です。先発製剤と差別化できるか、安定した品質の製剤が生産できるかどうかは、処方設計にかかっています。ここで先発製剤の課題点をカバーする方法を考えてラボで様々な試作検討を行い、ラボの約10倍量のパイロットスケールにて申請用の検体を製造します。品質に問題がなければ、厚労省に申請します。実生産スケールでの検討は、パイロットスケールでの結果を元に、製剤技術部が実施しています。

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話を聞くと、技術や知識はもちろん、かなりの熱意も要るように感じます。ちなみに、今回の開発で一番苦労したことは何ですか?

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凍結乾燥型の口腔内崩壊錠と普通の錠剤とでは、ベッセルという容器の中での溶状(溶け具合)が異なるので、先発製剤と溶出挙動を合わせるのに苦労しました。

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苦労した分、成果を出すことができた時の喜びは格別なのでしょうね。

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開発というと、一人でコツコツ研究しているイメージが…。
実際には、日医工の開発部はどんな雰囲気なのでしょう。

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先ほど、「実生産スケールでの検討は、製剤技術部が行う」とおっしゃっていましたが、他の様々な部署とコミュニケーションを取ることも多いのでしょうか。

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はい。開発は一人でできるものではありません。各部署と協力しないといけないので、コミュニケーションはとても大事です。私が入社した年に富山工場のハニカム棟ができたのですが、開発も技術も生産も近くにあるので、コミュニケーションが取りやすいです。オープンスペースになっているハニカム棟のおかげで、以前より開発と生産のスタッフがよく行き来するようになったみたいですね。

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物理的な距離が縮まって交流が深まったんですね。それは会社としても頼もしいかぎりです。

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Iさんは開発するにあたって、設計者としてどんな心構えを持っていますか?

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仕事としては、初期の処方設計から厚労省に申請して承認を得るまでがメインなのですが、常にその先のことまで見すえて仕事をしています。承認された製品が恒常的に作り続けられるか、あるいは、患者さんや薬剤師さんの手元にわたった時に取り扱いや服用性の点で問題がないか…。日医工にとっても、患者さんや薬剤師さんにとっても、販売されてからがその製剤のスタートだと考えています。

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「開発して完了」ではない。確かにそれを意識しながら仕事をすることで、視野や発想に広がりが出そうですね。では最後に、富山県に住んでみての印象を聞かせてください。

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私は富山県外の出身で、富山県には縁もゆかりもありませんでした。初めて住んでみて、水や魚が美味しいことに驚いています。それと自然も多いので、子どもと一緒に様々な遊びを楽しんでいます。

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患者さんやそのご家族、医療現場の方のことを考えて薬を開発しているのですね。
Iさん、ありがとうございました。