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FRONTLINE OF CLINICAL SITE診療現場最前線 Vol.2
制吐療法における薬剤師の役割と保険薬局との連携
(大腸癌薬物療法を例に)

総合監修 / Vol.2:橋本 浩伸 先生(国立がん研究センター中央病院 薬剤部 部長)

診療現場最前線 Vol.2
制吐療法における薬剤師の役割と保険薬局との連携
(大腸癌薬物療法を例に)

掲載日:2022年9月16日
監修の先生の肩書更新:2023年4月20日

がん薬物療法には支持療法も含め、多職種がそれぞれの専門性を発揮するチーム医療による対応が必須となっています。今回は、大腸癌薬物療法における制吐療法のリスク評価や患者さんへの説明・指導、保険薬局との連携などについて、国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本浩伸先生にお話を伺いました。

制吐療法のリスク評価


橋本 浩伸 先生
国立がん研究センター中央病院
薬剤部 部長

制吐療法のリスク評価と制吐薬の使い分けは、基本的には制吐薬適正使用ガイドラインに基づいて行います。ただ、日本のガイドラインは改訂のスパンが長いので、ASCO(米国臨床腫瘍学会)やNCCN(National Comprehensive Cancer Network)が作成しているガイドラインや新しい臨床試験の結果なども踏まえて決めることが多いです。大腸癌の薬物療法については、日本と海外とではさほど隔たりはありませんので、大腸癌の支持療法に関しては制吐薬適正使用ガイドラインをもとに制吐薬の使い分けを行っています。

チーム医療における
薬剤師の役割

当院では、制吐療法はチーム医療で行っています。その中で薬剤師は薬物療法を始める前の説明や副作用の確認などに携わっています。制吐療法に関しては、医師によって治療薬の選択にバラつきがないよう、また、どの薬剤を用いるか迷わなくてよいようにレジメンを作成する段階から関わっています。それでも、吐き気をコントロールできない患者さんの場合は、個別に対処しています。回診時にお話を伺ったり、カルテから情報を読み取ったり、薬剤師が薬の専門家として判断して薬剤の追加や変更を医師に提案していくのもチームの中での役割だと思っています。
当院では、制吐療法に関する説明を薬剤師が行っています。薬物療法を始める前に投与の順番やその意味合い、作用機序や投与にかかる時間、制吐薬により現れる可能性のある副作用などを説明します。また、外来の患者さんには、点滴中に前回から治療日までの自宅での様子を伺います。それによって、追加の薬の提案などをすることもあります。

制吐療法に薬剤師が関わる意義は、副作用のマネジメントにあると思います。副作用のなかでも、吐き気は患者さんが最も気にされるものの一つですので、何とかしたいという気持ちで、制吐療法を熱心に研究している薬剤師も多くいます。ガイドラインどおりではうまく吐き気をコントロールできない場合には、研究や調査を行うなどして、支持療法のマネジメントに携わることがチーム医療での役割を果たすことでもあり、薬剤師が関わる一番のメリットなのではないかと思います。

気持ち悪くなりやすさの事前
の確認が大切

制吐療法の説明・指導において特に気をつけているのは、患者さんがもともと気持ち悪くなりやすい方なのか否かを確認することです。それにより制吐薬を工夫したり、生活指導を行います。例えば、患者さんが「抗がん薬によって気持ち悪くなるかもしれない」という不安を持っていると、それが影響する場合があります。まずは、この予測することで気持ち悪くなるという状態をなるべく減らしたいと考えています。そのため、制吐療法の説明・指導をするときには、ふだんの生活で乗り物酔いをしやすいか、お酒が飲めるのか、女性の場合には、悪阻がひどかったかどうかなどを確認します。
また、1回目、2回目の薬物療法が終わり、さまざまな制吐薬を試しても気持ちが悪いと訴える患者さんに対しては、背景因子として、食事の時間が規則正しくなかったり、1食抜いたりなどの食事のタイミングが吐き気に影響している場合もあるので聞き取りをすることもあります。

患者さんへの
説明・指導のコツ

当院ではいくつかのがん薬物療法のパンフレットを電子版として公開しており、患者さんへの説明・指導の際には、その中の制吐薬の説明を印刷し、冊子として患者さんにお渡ししています。初めて抗がん薬による薬物療法を行う患者さんで、気持ち悪くなることが不安だという方には、「吐き気止めを使わないと約9割の人が気持ち悪くなりますが、この吐き気止めを使うと2割くらいに抑えることができるので、たぶんあまり気持ち悪くなりません」と少しその気になってもらえるような説明の仕方をしています。
さらに、入院と外来の患者さんでは説明の仕方も自ずと変わってきます。入院患者さんならば毎日会えるので、情報を小分けにして伝えることができます。不安の強い患者さんなどは、一度に多くの情報を伝えると受け止めきれなくなる場合もあります。その場合は情報を少し限定してお伝えしなくてはなりません。一方、外来患者さんの場合、来院したときに様子をみながら一番重要な副作用のことだけ伝え、残りは3週間後の来院時に説明することもあります。また、次の来院時に懸念していた副作用が現れていたら、新たな情報ではなく引き続き前回と同じ説明をすることもあります。このように入院と外来では伝えられる情報の量が異なる可能性はありますが、いずれにしても患者さんの気持ちに寄り添い、負担にならないように常に心がけています。

間接的な
アプローチが制吐に
つながることもある

大腸癌のがん薬物療法のうち、イリノテカンなどは嘔吐には直接関係ありませんが、下痢を引き起こします。この薬剤は、体内で作用したあと、その日のうちに薬剤が外に排出されればそれほどひどい副作用にならないことが多いです。このような大腸癌薬物療法に特有の副作用の場合は、便秘のコントロールが重要です。ふだんから便秘のある方や制吐薬の5-HT3受容体拮抗薬の副作用による便秘がある場合には、イリノテカンを早く排出させるようにするなど、間接的に吐き気がひどくならないように注意しています。具体的には、点滴をした次の日には必ずお通じがあるように下剤でコントロールすることを提案する場合もあります。「薬が残っていると、薬が体内で循環してしまい副作用が強くなる可能性があるので、そうならないようにしましょう」と対策を提案するわけです。直接吐き気を軽減するものではありませんが、下痢という消化器症状を抑えることで間接的には制吐につながるものだと考えています。こういった観点で総合的に支持療法をマネジメントできることが薬剤師の強みではないかと考えます。

保険薬局には、病院での
治療と治療の間を埋める
情報の収集を期待

制吐薬は院外の保険薬局で処方されることも多くあります。特に当院の場合、全国から患者さんが集まっています。その中で保険薬局との情報共有にはトレーシングレポートが用いられています。処方せんを受け取った保険薬局が患者さんと話した結果、副作用の発現が疑われるような場合はトレーシングレポートをファックスで送ってもらうようにお願いしています。
地方の保険薬局でも処方せんを受け付けているため、Webを使った勉強会を実施し、周知に努めています。勉強会は年に4〜5回開催し、各回400~500人が参加しています。東京都の保険薬局が多いですが、地方からも参加していただいています。
ただ、現在はまだトレーシングレポートのフィードバックはそれほどありません。現在、院外処方せん枚数が月約9,000枚に対して、トレーシングレポートは200枚くらいというのが現状です。トレーシングレポートの普及には今少し時間がかかるかもしれませんが、治療と治療の間を埋めてくれることを期待しています。
既にこうした対応に取り組んでいただいている保険薬局も多くあります。例えば、来院した日から次の治療までの3週間の間に患者さんの自宅に電話して、得た情報を病院にフィードバックしてくださるところもあります。先ほどもお話ししたように、入院と外来では情報を伝えられるタイミングや回数に差があります。そこをフォローしてくれる保険薬局が徐々に増えてきています。保険薬局には患者さんとの関係を強みとして発揮してもらうことに、非常に期待をしています。
特にフォローしていただきたいのは、患者さんがふだんとどう違うのかというところです。「気持ちが悪い」と聞き取ることができたとしたら、どのくらい気持ちが悪いのか、1回目の治療のときとどう違うのかなどの、さらなる聞き取りが必要です。コントロールが難しい場合は、その原因を推察しなければなりません。そのときに参考になるような情報や、患者さんの背景を聞き取ってほしいと思います。治療については病院で説明を受けているだろうと思っていても、実は聞き取れていない場合もあります。そのようなところを重点的にフィードバックしていただけると助かります。


国立がん研究センター中央病院で使用している
トレーシングレポート

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また、当該医薬品の使用に当たっては、最新の添付文書、ガイドライン等をあわせてご参照くださいますようお願いします。

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