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FRONTLINE OF CLINICAL SITE診療現場最前線 Vol.3
制吐療法における保険薬局の役割と服薬指導のポイント
(大腸癌薬物療法を例に)

総合監修:橋本 浩伸 先生(国立がん研究センター中央病院 薬剤部 部長)
Vol.3 野々村 磨つ 先生(日本調剤 築地薬局)

診療現場最前線 Vol.3
制吐療法における保険薬局の役割と服薬指導のポイント
(大腸癌薬物療法を例に)

掲載日:2022年9月16日
監修の先生の肩書更新:2023年4月20日

がん薬物療法においては内服薬の抗がん薬、支持療法の処方せんが院外処方されることも多く、保険薬局が対応していますが、保険薬局では病院で実施されている薬物療法の内容が明らかになっているケースは、まれです。そのような環境下での保険薬局の役割や服薬指導のポイントなどを日本調剤築地薬局の野々村磨つ先生に伺いました。

病院との情報共有の状況


野々村 磨つ 先生
日本調剤 築地薬局

私の勤務する日本調剤築地薬局は、国立がん研究センター中央病院(以下、中央病院)の前にある保険薬局のうちの一つです。
中央病院との情報共有の方法には、まず患者さんが持参される化学療法情報提供書(以下、情報提供書)があります。その内容は国で定められており、基本的には薬物療法のレジメンや投薬スケジュール、現在何クール目かなど、その日に実施した薬物療法の内容がわかるようになっています。
ただ、個人情報などの制約があり、すべての患者さんが情報提供書を持って来局されるわけではありません。全体の2割くらいだと思います。特に、消化器領域は患者さんの数が非常に多いことに加え、大腸癌の薬物療法は外来でできるものが多く、レジメンによっては患者さんの病院滞在時間も短いため、作成に時間を要する情報提供書が発行される方はごくわずかです。
そこで、病院が発行する領収書に添付される明細書をみせていただくと、必要な情報が得られる場合もあります。または、入院で化学療法を行っている場合、お薬手帳に病院薬剤師が作成した退院時指導のシールが貼られています。そこには入院中に行った治療や使用した薬剤が記載されていますので、そちらをヒントに治療の経過を確認します。

病院との情報共有とは少々離れた話にはなりますが、2021年10月20日に医療保険の『オンライン資格確認』の本格運用がスタートしました。医療機関や薬局では、患者さんが加入している医療保険の資格を正確に確認する必要があります。この資格確認作業を、マイナンバーカードを利用することですぐに行えるようにした情報システムが『オンライン資格確認』です。高額療養費制度を利用する方は、こちらをご選択いただくと、書類を申請する必要がなく、患者さんから保険者への申請がない場合でも限度額情報を取得できるため、限度額以上の医療費を窓⼝で⽀払わなくてよくなるなど、さまざまなメリットがあり、多くの患者さんが利用されています。患者さんの同意があれば、過去に処方された薬や特定健診の情報、院内で行っている点滴内容を薬剤師に共有することができます。
当薬局ではこのシステムを積極的に活用し、継続的なデータをみたうえで健康管理に関するサポートやアドバイスを行っています。

一般の保険薬局での
服薬指導のヒント

保険薬局は、患者さんに安全にお薬を服用していただくために、患者さんのプライバシーに十分配慮したうえで、疾患や治療内容の確認を行い、処方された医薬品が適正に使用されているのかを判断し、服薬指導を行わなければなりません。
疾患に関する情報には、既往歴や合併症および他科受診において加療中の疾患に関するものも含まれ、処方せんの受付の都度、患者情報を確認し、新たに収集した情報を踏まえたうえで必要な服薬指導を行います。
中央病院の近隣の薬局に比べて、一般の保険薬局ではがん患者さんの処方せんを受け付ける機会は圧倒的に少ないと考えられます。しかし、服薬指導のためには、基本的にどのがん種においても、薬物療法の流れをある程度知っている必要があります。中央病院の門前という環境でも、新薬や治験の患者さんの場合は、推測できないこともありますので、初回は患者さんにどのような治療をしているかなどを教えていただきます。
患者さんから教えていただけない場合には、処方せんからどのようなことが考えられるのかを検討し、疾患やレジメンを推測して正しい服薬指導につなげる必要があります。
大腸癌について、疾患やレジメンを推測する手順を以下に整理しました。

まず処方せんにカペシタビン(Cape)の記載があり、術後3ヵ月以内の開始であれば、術後補助療法、加えてデキサメタゾンの処方があればCAPOX療法と推測します。術後なのか切除不能なのか、また何コース行うのかを確認することでStageの予測も可能です。

次にCapeが処方されていない場合、処方せんの制吐薬から催吐性リスクを判断してレジメンを絞っていきます。基本的に高度催吐性リスクに準じた処方であれば、FOLFOXIRIと推測できます。その他、多くのレジメンは中等度催吐性リスクに分類されます。ただし、若い女性である、乗り物酔いがひどい、悪阻がひどかったなどの理由で催吐性リスクが高いと判断された患者さんの場合は、中等度に分類されるレジメンでも高度催吐性リスクに準じた処方の場合があります。初回からの場合もありますし、経過をみてから変更になる場合もあります。

副作用の説明からも推測することができます。患者さんには、まず「先生から副作用の説明でどういったお話がありましたか」と尋ね、キードラッグを引き出します。例えば5-FUの持続点滴とわかった場合、次に副作用として痺れがあるのか、下痢があるのか、あるいは脱毛の状態を伺い、脱毛の訴えが多くなければ、イリノテカンベースの薬物療法ではなくFOLFOX療法かな、などと患者さんの状態や副作用の発現状況から治療薬を推察しています。その中で組み合わせを考慮し、疾患をもう一段階絞り「大腸の治療をされていますか」のように順に質問することで、最終的に直腸癌なのか、上行結腸癌なのか、S状結腸癌なのか病名を絞っていきます。

大腸癌は、遺伝子変異の有無や病変が左右どちらにあるかにより、レジメンが異なります。FOLFOXもしくはFOLFIRIにパニツムマブやセツキシマブといった分子標的薬の上乗せをしている場合は、皮膚障害予防のため、処方せんにミノサイクリンやステロイドの外用剤の記載がある可能性が高くなります。その場合には、大腸の左側病変(下行結腸、S状結腸、直腸)の診断を受けたと推測します。一方、FOLFOXもしくはFOLFIRI、FOLFOXIRIにベバシズマブを上乗せしている場合は、処方せんに追加の薬剤はありませんが、毎日の血圧測定を指導されているはずです。また泡立った尿が出る可能性があるなどのタンパク尿の説明を受けているかもしれません。このような話を伺い、かつ遺伝子変異がないと判断されていれば、右側病変(盲腸、上行結腸、横行結腸)の診断を受けたと推測します。

最後に患者さんの状況をヒントにすることもあります。5-FUの約46時間持続点滴をされている患者さんはポンプを下げている、直腸癌の患者さんだと肛門痛があるので、席が空いているのに座らない方もいます。


外来での5-FU持続点滴には
ポートの設置と持続点滴用ポンプ
が必要

情報提供書がない場合には、このようにレジメンや病名を推察しています。

また、同じ薬剤師が継続的に一人の患者さんに対応することも重要です。例えば、FOLFOXやFOLFIRI、FOLFOXIRIベースの治療であれば2週間隔、Cape単剤やCAPOX療法であれば3週間隔での治療になります。初回に対応した薬剤師は、患者さんの次の来局までに勉強し、2回目以降も同じ薬剤師が対応することが、信頼関係の構築の観点からも望ましいと思います。
一方、外来で内服薬のみの薬物療法を行っている患者さんに関しては、病院薬剤師の介入が少ないので、保険薬局の役割がより重要になってきます。新しく外来でのがん薬物治療を始められた患者さんには、必ず来局から1週間後くらいに電話でのフォローアップを行っています。
病院へのフィードバックは、どの副作用でもCTCAEに基づいたGrade表記で行いますので、Grade分類の内容をそのまま患者さんに尋ねれば良いと思います。悪心であれば、顕著な体重減少がみられたか、嘔吐であれば、追加の制吐薬が処方され服用したなど内科的治療を要するレベルかどうかなどを確認します。処方された制吐薬の服用の有無、服用の頻度の確認も必要になります。また前コース同様、Grade2の悪心であっても、前回との違いや悪心を引き起こす化学療法以外の原因は考えられないのかなど、状況を詳しく聞き取り、医師へフィードバックしています。そうすることで、次回の治療における制吐薬が処方継続か、あるいは処方の変更が必要かの判断に役立つと思います。

服薬指導のコツ

抗がん薬投与後に来局された患者さんの場合、服薬指導時に体調の悪い方も多く、患者さんの状態や理解度を見ながら、的を絞って服薬指導を行うことが重要です。状況によっては、患者さんには席にお掛けいただいたままで、薬剤師が説明しに伺うことも心がけています。
制吐療法を例に服薬指導のコツをご紹介します。制吐療法では、院外処方としてデキサメタゾンが多く処方されています。指導方針として「まずは必ず飲んでいただくこと」が重要です。ステロイド薬であることや、胃潰瘍や糖尿病の副作用が示唆されていることから服薬を躊躇する患者さんもいらっしゃいます。しかしそこは心配せずに、悪心症状を予防するための重要な処方であるということを強調し、必ず服薬していただくよう指導します。
また、食後で処方されている場合は『食後』と記載されているため、患者さんから「食事が摂れなかったので飲みませんでした」と報告をいただいたことがあります。そのような懸念のないよう、「体調が悪く、食事が摂れなくても多めの白湯などで必ず服用するように」と伝えています。いくつも薬剤が処方されているときは、その中でも「必ず飲まなくてはいけない薬は、これとこれです」と絞って特に詳しく説明をしています。その他の細かいことは1週間後の電話フォローのときに説明するということで良いと思います。電話でのフォロー時に患者さんへの指導や説明した内容は、トレーシングレポートで中央病院にフィードバックしています。次の診察までの間の、タイムリーな情報を伝えるためです。電話でのフォローに基づいた処方追加の提案などもトレーシングレポートでフィードバックしています。また、中央病院との取り決めで、CTCAEによる評価がGrade2以上で緊急的な介入が必要と判断される場合には、トレーシングレポートと同時に電話連絡をすることになっています。

保険薬局の役割は
診察と診察の間の
電話による患者さんの
フォロー

制吐療法における保険薬局の役割は、電話でのフォローにより、必ず飲まなくてはいけない制吐薬を飲んでいるか、適切に使用しているかを確認するなど、患者さんが医師に会えない2~3週間の間の介入をすることです。
患者さんは、次回以降の治療による改善はもちろん、今、現在の状態について、「どうにかならないのか」という悩みを常に抱えています。悪心がひどく食事が摂れない場合の食事の工夫の提案や、便秘、電解質異常、併用薬の副作用から現れる悪心症状の回避など、あらゆる側面から薬剤師の立場でアドバイスできることを電話でのフォロー時にお伝えしています。
また、何かあったときに気軽に聞ける窓口というのはやはり必要で、病院への電話はハードルが高くても、ちょっと気持ちが悪いなどというときにファーストコールする先として、薬局の役割は重要だと思います。当薬局は、24時間電話対応をしているので、時間外にかける携帯電話の案内も必ずしています。

地域連携薬局としての
役割

当薬局は、2021年4月の『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)』の改正で新たにできた地域連携薬局および専門医療機関連携薬局の認定も取得しました。一般の薬局では、他の疾患に比べてがんの患者さんは少ないかもしれませんが、対応はできなければなりません。そのためには知識が必要です。これからは、どこの薬局にいっても患者さんが最低限担保された服薬指導、治療を受けられるように、地域の薬局同士の教育を専門医療機関連携薬局の認定を受けた薬局がリードして行っていく必要があると考えています。
特に1年目の薬剤師は、患者さんの多いがん種からで良いので、少しずつ勉強していく必要があります。当薬局においても、定期的にわかりやすい勉強会を開くなどのサポートが必要だと考えています。
また、病院との関係においては、情報提供を待っているだけではなく、薬局側からも症例発表をするなど、積極的に働きかけていくことが必要です。人間関係の構築がまず必要と感じており、今後はさらに病院薬剤師との交流を重ねて『顔のみえる関係』を築き、薬薬連携にも力を入れていきたいと思います。

当コンテンツの情報および監修者の所属・役職は掲載日時点での情報となります。
また、当該医薬品の使用に当たっては、最新の添付文書、ガイドライン等をあわせてご参照くださいますようお願いします。

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