取材月:2024年9月

多職種連携で活動するASチーム (前列向かって私の左が薬剤師、右が呼吸器内科医、後列の左右端が感染制御認定看護師、左から二人目が薬剤師、その左隣2名が検査技師)
当院での抗菌薬適正使用支援(AS:antimicrobial stewardship)チームは、以前2つの大学から医師を派遣していただき、薬剤師1名、検査技師2名、看護師1名の構成で活動していました。その後私が加わり、薬剤師も2名となり4年が経過しました。大学と異なり相手の顔が見える関係での介入で、医師によりアプローチの方法に工夫してきました。当初感じたのは、介入に対して、よく聞いてくださる先生と、当初から介入成果をあきらめている先生にASチームが色分けしていることでした。
Stewardshipのスチュワードは「執事」の意味で、今はキャビンアテンダントに名称が変わりましたが、飛行機の客室乗務員と同じような気持ちで接することが肝心です。無関心の医師をいかにASに目を向かせるかが、実質的な活動を行う上で不可欠で、上から目線の介入はご法度です。3年かかりましたが、ようやく2024年より薬剤師が独り立ちしてくれました。当院は日本に4つある特定感染症指定病床をもつ施設であり、感染症専門医を取得できるような医師を育てていくのが、今後の課題になっています。

企業と共同開発した感染管理支援システム(TOKONAME version)を活用してのASミーティング
医師からの信頼を得るためには週1回介入では十分でなく、ASチームのミーティングは週2回で、気になる症例はその間にもチェックします。赴任直後からバンコマイシン(VCM)のtherapeutic drug monitoring(TDM)は以前のトラフガイドからarea under the time-concentration curve(AUC)ガイドに変更しました。VCM投与終了時間から採血までの正確な時間の入力が必要なため、病棟看護師教育も併せて行いました。濃度測定は外注のため、週の後半に開始する症例では通常の3日目のトラフ測定でなく、翌日のピーク、トラフの2ポイント採血で対応しています。
抗菌薬使用量はカルバペネム系に留まらず、タゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)、第4世代セフェム系薬・セフタジジム(CAZ)、キノロン注など緑膿菌に活性を有する4クラスの抗菌薬(主に院内感染で使用する広域抗菌薬)を対象とし調査を行っています。量的指標としてday of therapy (DOT)、質的指標としてそれらの比率を感染対策委員会や医師へフィードバックしています。推移だけでなく、目標値(ベンチマーク)を設定していますが、100ベッド当たりのDOTは大学病院と市中病院では異なり、主に院内感染で使用する広域抗菌薬は大学病院で、主に市中感染に使用する広域抗菌薬(セフトリアキソンやスルバクタム/アンピシリン)は当院のような市中病院で多く使用されています。
市中病院間でも抗菌薬使用パターンは個々の特徴が出てきますので、DOTは各施設で設定する必要があります。一方、抗菌薬の使い分けは精力的にAS活動を行えば、病院間での差は少なく、カルバペネム系、TAZ/PIPC、第4世代セフェム系薬・CAZ、キノロン注が3:3:3:1となる比率を目指します。TAZ/PIPC過剰使用でもカルバペネム系の抗菌薬感受性に影響を与えますので、全体的なバランスをとることが肝心です。
このような取り組みは院内に留まらず、地域連携にも広げています。さらに最近では外来感染対策向上加算を取得した開業医に対して、経口抗菌薬使用に関する個々の施設へのフィードバックも始めました。2025年4月より知多半島総合医療センター(旧 半田病院)と経営統合し知多半島総合機構が生まれます。そのため昨年から知多半島総合医療センターでのASミーティングにも参加し、自分の得意分野である整形外科、心大血管外科手術後の手術部位感染治療を中心に介入を始めました。今後は両病院間でのASチームの交流も活発に行われればとの期待も膨らんでいます。