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Introduction of ICT and AST北里大学 北里研究所病院
抗菌薬適正使用支援チーム(AST)
多職種構成によって各専門知識を活かした
多角的な評価の実施

監修:北里大学 北里研究所病院 薬剤部/感染管理室
北里大学 薬学部 臨床薬学研究・教育センター 生体制御学 助教
小林 義和 先生

取材月:2025年3月


ASTメンバー

北里大学 北里研究所病院の抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)は、医師1名、看護師2名、薬剤師4名、臨床検査技師3名、事務スタッフ2名(他業務と兼務)の計12名からなる多職種チームです。当チームは多職種構成によって各専門知識を活かした多角的な評価が可能になっています。各職種の特性を活かしながら、個々の症例検討だけでなく病院全体の抗菌薬使用において各メンバーの専門的視点が適切に反映されるようにチーム運営をしています。

ASTチームにおける各職種の活動を紹介します。

多職種での症例検討と薬剤師の役割


毎週金曜日に開催されるカンファレンス風景

ASTの主軸となる活動は、毎週金曜日に開催されるカンファレンスです。広域抗菌薬や抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus)薬が処方されている症例などを対象に、電子カルテをレビューし、チーム全体で検討します。症例検討において培養結果や臨床経過を確認しながら、抗菌薬の種類や投与量、投与期間の適切性を評価しています。必要に応じて、主治医に抗菌薬の変更や、投与期間の短縮などを提案することもあります。感染管理室の薬剤師が対象症例の事前レビューを行って情報を取りまとめることで、カンファレンスを効率的に進行し、情報の誤認などに伴うミスリードを防ぐ効果が得られていると考えています。

薬剤師は主に抗菌薬の投与設計において専門知識が求められています。抗菌薬の適正用量や相互作用のチェックだけでなく、患者さんの腎機能や肝機能に応じた投与量調整の提案も重要です。治療薬物モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)を活用して抗MRSA薬等の血中濃度を最適化し、有効性と安全性のバランスを保っています。血中濃度に異常値が認められた場合は、投与の正確性や採血手順を確認し、ヒューマンエラーによる異常値ではないことを慎重に検証します。また、患者さんの体格や年齢特性を考慮した母集団薬物動態パラメータとの比較に基づいて、TDMによる投与計画の妥当性を総合的に判断しています。血中濃度推移に基づく判断だけでなく、医師とともに対象患者さんの状態を協議して、有効性と安全性の優先度を反映した投与計画を決定します。

カンファレンス後には抗菌薬適正使用の評価や提案を電子カルテに記載し、主治医へフィードバックします。特に治療変更の提案を主治医へ伝達する際は、病棟薬剤師の協力により適切にフィードバックが行えています。

抗菌薬適正使用に関わる情報を整備することも薬剤師の重要な役割です。国内外のガイドラインを参考に、院内で検出された細菌の薬剤感受性パターンや採用薬を考慮して、院内の抗菌薬ガイドラインを作成し、感染症の初期治療や周術期予防投与の際に適切な抗菌薬投与が実施できるように努めています。また、近年は医薬品供給が不安定であることから、使用可能な抗菌薬を明確にすることやそれらを確保することは、従来よりも薬剤師に求められていると感じています。

このようなAST活動の影響もあり、広域抗菌薬の使用量は減少傾向にあります。特にカルバペネム系薬は確実に減少し、抗MRSA薬も数年にわたり減少してきました。抗菌薬使用量は院内講習などでフィードバックしていますが、具体的な数値を伝えることで抗菌薬適正使用に対する意欲が維持されることを期待しています。当院のような規模では、特定の抗菌薬の使用量は特殊な症例の有無にも左右されるため、短期間のデータに基づく評価は難しい部分がありますが、10年以上のデータに基づく年単位の推移では広域抗菌薬が明らかに減少しており、適正使用が進んでいる証と考えています。

薬剤師
小林 義和 先生

薬剤師
及川 雄太 先生

薬剤師
武藤 虎甫 先生

薬剤師
生田 夢香 先生

抗菌薬適正使用による薬剤耐性菌発生リスクの低減を目指した臨床検査技師の役割

細菌検査業務では様々な検体を培養し、同定および薬剤感受性検査を行っています。院内の抗菌薬適正使用の普及と薬剤耐性菌発生リスクの低減に貢献できるよう日々の検査業務に従事しています。細菌検査室を病院施設内に常設していることは、結果報告までの時間短縮や臨床医とコミュニケーションをとりながら検査を進めることが可能になるといったメリットがあり、治療への貢献度が高いと考えています。感染対策が必要な薬剤耐性菌の検出や、血液培養などの無菌検体から細菌が検出された際は、迅速に臨床医・感染管理室・病棟へ情報共有を行います。

最適な抗菌治療を早期に開始・変更できるように、毎週ASTミーティング時に検査の途中経過や結果速報を共有しています。感染対策委員会では一ヶ月毎の薬剤耐性菌の検出状況や血液培養陽性状況等を報告し、院内感染対策の意識向上を促すことで抗菌薬適正使用の普及と薬剤耐性菌発生リスクの低減に繋げたいと考えています。一年毎にアンチバイオグラム(薬剤感受性率一覧表)を作成しており、過去データやAMR対策アクションプランの目標値との比較から、院内の薬剤感受性率の動向を把握し、院内に共有しています。

現状の細菌検査室の検査体制において、可能な限り抗菌薬適正使用の普及と薬剤耐性菌発生リスクの低減への貢献を継続していくことのみならず、質量分析装置などの新たな装置の導入や他施設・他職種から得られる新たな知見をもとに、より一層治療へ貢献していけるように取り組んでいきたいと考えています。

臨床検査技師
中村 一樹 先生

臨床検査技師
新井 翔 先生

教育・啓発活動の重要性と看護師の役割

ASTの重要な活動の1つは、医療スタッフへの教育・啓発とされます。

抗菌薬の適正使用には処方する医師だけでなく、投与に携わる看護師など全ての医療スタッフの理解と協力が不可欠です。そのため、わかりやすい情報提供と継続的な教育の重要性を強調し、薬剤耐性菌に関する勉強会を企画し、基本的な内容から理解を深めてもらえるよう活動を続けています。

また、単なる薬剤の用量や使い分けを超えて、院内の感染状況を評価する『サーベイランス』が重要です。ICN(感染管理看護師)はその情報をもとに患者さんの治療状況を的確に把握し、関係者間の情報共有を図ることも役割の1つであり、AST活動に参加する意義であると考えています。一般的に行われているのは医療器具関連のサーベイランスで、尿道カテーテルや中心静脈ライン(CV)の使用患者、手術を受けた患者などを対象に感染状況を調査します。これは看護師の重要な業務の一つであり、感染管理において大きな役割を果たしています。

ASTの看護師メンバー

主治医の納得をいかに得るかが課題 ICDの役割

治療が難航している症例への相談は、AST活動の重要なきっかけとなっています。主治医が既に教科書的治療を試みているケースでは、ASTが患者の経過データを徹底的に見直し、新たな治療法を提案することがあります。また、標準的でない治療で苦労しているケースでは、ASTが難度の高い選択肢を提示し、効果を上げた例もあります。このような難症例は多くありませんが、AST介入の貴重な機会となっています。ASTの本質は抗菌薬の適正使用にあり、現在、世界標準の治療法は確立されていますが、個々の症例への適用が現場の課題です。治療者の立場から、これらの標準をいかに実践に落とし込むかを常に考え、教科書通りの最善策が実施できない状況では次善の策を検討し、主治医と直接コミュニケーションを取るよう心がけています。

抗菌薬の適正使用に関しては、患者さんの利益と一部相反する側面が生じることがあります。例えば、抗菌薬のスペクトラムを狭める方針は、治療の失敗リスクを伴う可能性があります。ガイドラインに沿った推奨があっても、一部の患者さんでは治療がうまくいかないケースが存在するため、現場でこの方針をいかに実行し、主治医の納得を得るかが難しい課題です。私たちASTはガイドラインやその根拠を明確に示し、主治医が理解し受け入れるよう努力を重ねています。

医師
鈴木 雄介 先生


院内ラウンド

北里大学 北里研究所病院のASTは、多職種構成によって各専門知識を活かした多角的評価を実現しています。各職種は固有の専門性を持ち、他職種では介入が難しい領域があるため、個別症例だけでなく病院全体において全ての職種の意見が適切に反映されるよう取り組んでいます。このように職種の特性を最大限に活用し、患者さんの安全確保と治療の質向上を目指した活動を日々展開しています。

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