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Infection Control vol.19AFS実践の高度化に向けて
TDMと副作用・相互作用管理の新たな視点

監修:兵庫医科大学 感染制御学
助教 植田 貴史 先生

AFS実践の高度化に向けて
TDMと副作用・相互作用管理の新たな視点


兵庫医科大学 感染制御学
助教 植田 貴史 先生

抗真菌薬適正使用支援(AFS:Antifungal Stewardship)を継続的に行っていくためには、薬剤師が持つ専門性をより深く活かし、臨床現場での介入を高度化していくことが欠かせません。vol.19では、抗真菌薬の治療薬物モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)や副作用管理、薬物相互作用といった薬剤師の専門的知識を基盤として、AFS活動を深めていくためのポイントを整理していきます。

目次

VRCZのTDMの意義

TDMは治療効果の確保と副作用防止のバランスを保持する上でとても重要です。特にアゾール系薬であるボリコナゾール(VRCZ)は、日本人ではCYP2C19の機能欠損によるpoor metabolizerが比較的高率に存在するため1)、血中濃度が上昇しやすい特徴があります。そのため、入院中に限ってではありますが、国内で唯一TDMが保険適用となっています。

『抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022 VRCZ executive summary 更新版』では、VRCZ投与開始後3~5日目にTDMを実施し、トラフ値が1~4μg/mLの目標範囲に入っているかを確認することが推奨されています2)。1μg/mL未満だと治療効果が得られず、4μg/mLを超えると肝障害などの副作用の増加が懸念されるからです。

当院のデータでは、ガイドライン2)の投与設計に沿ってVRCZを投与しても初回TDMで目標濃度(1~4μg/mL)に達する患者さんは約54%にとどまり、低濃度が(<1μg/mL)6%、高濃度(≧4μg/mL)が約40%と、バラつきがみられることが明らかになっています。この特性を踏まえると、薬剤師が初回TDMの結果を見て迅速に、患者さん個別の用量調整を行う必要があると考えられます。

実際、初回TDMによる投与量の調整を行うと、2回目には多くの症例でトラフ値が目標範囲内に収まる傾向がみられます(図1)。バンコマイシンやアミノグリコシド系などの抗菌薬では初期投与設計が重視されますが、VRCZの場合はむしろ初回TDM後の調整こそが薬剤師の専門性を発揮できる場面となります。

病態が改善して経口摂取が可能になった患者さんには、注射剤から経口薬へのstep-down が推奨されますが3)、VRCZは注射剤と経口薬とでは薬物動態が同一ではないため、step-down後は改めてTDMを実施し、用量調整を行うことが必要です2)。

アドヒアランスの向上に寄与する副作用の事前説明

VRCZでは副作用として、光視症や色覚異常などの視覚異常が比較的早期に出現することが知られています。全国データでは401例中38例(9.5%)に出現し、早い例では2日目から症状が現れることが報告されています(中央値4日目)(図2)。多くは一過性で自然に軽快しますが、「明るさが極端にまぶしく感じる」「視界がぼやける」といった症状は患者さんの不安を招き、服薬中断につながる可能性があります。そのため、医師や薬剤師は投薬前に「数日後に視覚症状が出ることがありますが、自然に治まります。薬はそのまま継続してください」と患者さんに説明しておくことが極めて重要です。事前説明の有無によって患者さんの受け止め方は大きく変わります。薬剤師が適切な情報提供を早めに行うことが患者さんのアドヒアランスを高めます。

臓器障害や薬物相互作用を踏まえた抗真菌薬選択

抗真菌薬の選択には、患者さんの臓器障害の程度や薬物相互作用を考慮することが重要です(表)。

例えば、VRCZの注射剤には、可溶化剤としてスルホブチルエーテルβ-サイクロデキストリンが添加されており、蓄積により腎機能低下のリスクがあります。そのため、クレアチニン・クリアランス(CLcr)が30mL/分未満の患者さんでは、治療上やむを得ない場合以外は注射剤を避け、経口薬の使用を検討します2)。また、ポリエン系のアムホテリシンBリポソーム製剤(L-AMB)も一般に腎障害を有害事象として生じやすいため、腎機能低下時には注意が必要です。

肝機能低下例に対する、キャンディン系薬の用量設定の注意が必要です。カスポファンギン(CPFG)は、Child-Pugh分類Bの患者さんではCPFGの血中濃度が上昇するため、初回投与量は正常時と同じですが、維持量は50mgから35mgへ減量します4)。一方、ミカファンギン(MCFG)は、肝機能低下時の用量設定が明確ではありません。そのため、当院ではChild-Pugh分類AではMCFG、CPFGどちらでもよいですが、Child-Pugh分類Bでは明確な減量基準があるCPFGを選択しています。また、アゾール系薬のVRCZではChild-Pugh分類A・Bともに初回投与量は正常時と同じですが、維持量は半量に減量します4)。いずれの薬剤もChild-Pugh分類Cに対する安全性データは十分でなく、慎重投与とされています4)。

薬物相互作用の観点では、VRCZはCYP2C19、2C9、3A4を阻害するため、これらの酵素で代謝される免疫抑制薬のタクロリムスやシクロスポリンなどの薬剤との併用には十分な注意が必要です4)。併用時は治療効果の減弱や副作用の出現を避けるため、血中濃度の確認や用量調整を行います。他科や他院で処方された薬剤情報が共有されていないケースもあり、その結果、相互作用の可能性が見落とされる場合があります。複数診療科で処方された薬剤を横断的に把握し、相互作用を評価できるのも薬剤師ならではの役割だと考えます。近年、発売されたアスペルギルス感染症などに適応を有するイサブコナゾール(ISCZ)はCYPの阻害効果が比較的弱く、患者さんの併用薬によってはISCZへの変更も薬剤師の役割と考えます。

L-AMBは、広範な抗真菌スペクトルを有する有効な薬剤ですが、副作用の管理が極めて重要です。主な副作用には、腎障害、電解質異常(特に低カリウム血症)、および投与時反応(背部痛など)があり、これらの適切な予防と対応は薬剤師の重要な役割となります。

腎障害の予防には、十分な補液による腎前性の循環血流の確保が不可欠です。具体的には、尿量の維持を意識し、腎毒性を有する薬剤との併用は避けるよう指導しています。抗真菌薬は選択肢が限られているため、抗真菌薬以外の薬剤を変更してもらうよう提案しています。また、L-AMBに伴う低カリウム血症への対応も重要です。カリウム値の定期的なモニタリングを行い、必要に応じて速やかに補正します。感染症薬を専門とする薬剤師がすべての患者を直接フォローすることは難しいため、病棟薬剤師にカリウム管理を依頼し、適切な補充が実施されているかどうかを確認してもらっています。

投与時反応の予防策としては、初回投与時に点滴速度を調整し、3時間かけて緩徐に投与するよう看護師に依頼しています。急速投与(例:1時間)では背部痛などの反応が強く出ることがあり、患者が治療継続を拒否する原因となるため、慎重な対応が求められます。

AFSを進めるための実践的アプローチ

以上、抗真菌薬の適正使用の重要性と薬剤師の役割についてお話ししてきました。専任のAFSチームを有する施設は稀かと思いますが、まずは薬剤部が中心となってVRCZのTDMなど介入しやすい取り組みから始めるとよいでしょう。感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)が活動している施設であれば、血液培養陽性例のラウンドに真菌感染症を組み込むといったアプローチも可能です。この場合もカンジダ血症といった重症化リスクの高い疾患から重点的に介入していくことが現場の実情に即しているといえます。

このような取り組みを効果的に進めるためには、病棟薬剤師をはじめとする多職種との連携が不可欠です。病棟スタッフは日常的に患者の状態や処方内容を把握しており、抗真菌薬の適正使用に関する情報共有や副作用の早期発見、電解質異常への対応など、きめ細やかなフォローが期待できます。薬剤部と病棟薬剤師が連携し、より実効性の高いAFSの実践が可能となります。

1)Desta Z, et al. Clin Pharmacokinet. 2002; 41(12): 913ー958.

2)日本化学療法学会/日本 TDM 学会 抗菌薬 TDM ガイドライン作成委員会編. 抗菌薬 TDM 臨床実践ガイドライン 2022 VRCZ executive summary 更新版.
https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/guideline/tdm2022_koshin_magazine.pdf(2026年2月閲覧)

3)8学会合同抗微生物適正使用推進検討委員会. 抗微生物薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス. 日本化学療法学会雑誌 2025; 73:95ー156.

4)深在性真菌症のガイドライン作成委員会 編. 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014. 協和企画,2014.

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