薬剤師主導の消毒薬管理と多職種連携の成功の鍵

東北医科薬科大学薬学部臨床感染症学
教授 藤村 茂 先生(写真右)
東北医科薬科大学薬学部臨床感染症学
講師 河村 真人 先生(写真左)
消毒薬の適正使用を実現するには、院内の組織的な管理体制の整備と、チーム医療における役割分担の明確化が不可欠です。 Vol.17では、薬剤師の専門性を活かした消毒薬の選定プロセスの構築、使用状況のモニタリング、他職種への効果的な教育・指導のあり方などについて考察します。
目次
薬剤師の専門性が光る消毒薬管理の重要性
感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)において、消毒薬に関する専門性を最も有しているのは薬剤師です。薬剤師は各消毒薬の特性や適正濃度を熟知しており、使用場面や対象微生物に応じた選定と使用が可能です。抗菌薬とは異なり、消毒薬は「この製品のみを使用する」といった限定的な運用ではなく、ほとんどの医療機関で数種類常備されており、場面ごとに最適なものを使い分ける必要があります。この判断には、薬剤師の専門的知見が欠かせません。
消毒薬の選定には、微生物検査を担う臨床検査技師の協力や、現場の状況を把握している看護師、最終的な判断を下す医師との連携が不可欠です。こうした多職種との情報共有を通じて、「この場面ではこの消毒薬が最も適している」と導き出すことが、薬剤師に求められる重要な役割の1つです。
また、消毒薬は使用範囲が広く使用量も膨大になるため、単価が低くても病院全体で見るとコストは決して軽視できません。薬剤師は、消毒薬の選定や使用方法の適正化にも深く関与しつつ、こうした経済的側面の管理を行う必要がありICTの活動において欠かせない存在と言えます。
薬剤耐性菌による院内感染が発生すると医療費は大きく跳ね上がります。海外の報告によれば、耐性菌でない感染症と比較して、MRSAでは約3倍1)、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL:extended-spectrum β-lactamase)産生大腸菌では約2倍2)の医療費がかかるとされています。こうした背景を踏まえると、薬剤耐性菌の拡大を防ぐためには、抗菌薬の適正使用だけでなく、手指や施設内環境消毒の徹底も不可欠です。薬剤師はその両面から感染対策に貢献できる存在であり、今後ますますその役割が重要になると考えられます。
多職種連携と教育・周知の重要性
消毒薬の調製と使用は主に看護師が担っており、薬剤師はその調製方法を正確に伝えるだけでなく、実際に適切な手順で実施されているかを確認する役割があります。また、使用方法については「指導」というよりも、適正使用の観点から「周知徹底」が重要です。
以前より看護師や薬剤師だけでなく医師も手指消毒があまり行われていない点が課題として指摘されています3)。したがって、ICTとして病院全体の医師にも働きかけることが不可欠です。一般にICTは、毎週院内ラウンドを実施しており、現場スタッフとの対話を重視しています。人と人とのつながりを大切にすることが、最も効果的なコミュニケーションにつながると感じています。医師に対しても、直接会って話すことが、理解を得るうえで最も有効だと思います。
病棟では看護師による消毒薬の使用が中心ですが、セミクリティカル領域まで視野を広げると、臨床工学技士など多職種も消毒作業に関与します(表1)4)。セミクリティカル領域とは、粘膜や損傷した皮膚に接触する医療器具や部位を指し、麻酔関連器材、(一部の)内視鏡、喉頭鏡ブレード、気管内チューブなどがあげられます。これらは患者間伝播を防ぐために高水準消毒が必要で、耐熱性がある器材は滅菌が望ましいとされます。そのため、薬剤師はICTと連携しながら、看護師や臨床工学技士を含む多職種に対して、教育・指導を通じて適正使用の意識を浸透させることが求められます。
適正使用の背景理解を促す薬剤師の説明力
特に検査技師や看護師は、消毒薬を自ら選定するのではなく、与えられた薬剤をマニュアルに従って使用するケースが多いため、「なぜその消毒薬が選ばれているのか」「他の薬剤では代替できない理由は何か」といった背景を薬剤師が丁寧に説明することで、より適切な使用につながると考えられます。
委託業者への対応については、清掃業者に限らず、リネン類の洗濯や食器の消毒など、病院業務に関わるさまざまな業者と一緒にラウンドを行っています。たとえば、調理器具の消毒に使用する塩素の濃度が適切かどうかなど、ICTラウンドの際には必ず確認・指導を行っています。業者側は「対応しているつもり」でも、実際には配管が詰まっていて塩素が正しく供給されていなかったり、食器洗浄機から塩素が出ていなかったりするケースもあります。そうした事態を防ぐためにも、機器のメンテナンスを含め、各業者には確実な対応をお願いする必要があります。
医療スタッフ教育・研修体制の確立について
効果的な医療スタッフ教育を実現するには、まず病院等で定期的に開催される研修会に可能な限り参加し、聴講することが基本となります。参加が難しい場合は、映像記録として残しておくことで、後から学習できる環境を整えることが重要です。
ただし、全職員を対象とした研修では、各職種の専門性に応じた内容まで網羅することは困難です。そこで、ICTが主導して、職種ごとに特化した研修を組み立てることが効果的だと考えます。例えば、薬剤師であれば消毒薬の選定に関する知識は持っていますが、現場での実践的な選定業務までは担当しないことが多いため、それぞれの職種に応じたポイントを押さえた研修内容が必要です。
また、近年増えてきているのが実技を重視した研修です。座学だけでなく、個人防護具の着脱や手指衛生の方法を実際に体験し、参加者同士で互いに確認し合うような実践的なプログラムを取り入れることで、楽しみながら学べる環境が生まれます。このように、講義形式と実技演習を組み合わせた研修体制を構築することが、効果的な教育には不可欠だと考えています。
モニタリングとフィードバックの重要性
院内感染予防の基本は、流水と石けんによる手洗いや手指消毒の徹底ですが、これらの衛生行動が確実に実施されているかをモニタリングすることも重要です。
たとえば手指消毒薬の使用状況の把握があげられます。各病室の前に設置された消毒薬の容器には「開封日」を記載するようにしており、これにより同じ病棟内でも使用頻度の違いが一目で分かります。「この部屋ではほとんど使用されていないのでは?」といった疑問が自然に浮かび上がり、ICTによる分析や対策につながります。
ICTは日頃から活動しているものの、アウトブレイクが発生した際には急に注目され、情報提供や対応の中心として頼られる存在になります。一方で、平時には「細かい改善点を指摘する存在」として、やや厄介的に思われることもあるかもしれません。しかし、パンデミックやアウトブレイクが起きていない時期こそ、ICTが院内で継続的に周知・啓発を行い、他の医療スタッフと連携することが重要だと感じています。日常的なサーベイランスを通じて現状を可視化し、データに基づいたフィードバックを継続的に行うことが、感染対策の実効性を高める上で効果的です。こうした日常的なフィードバックの積み重ねが、いざという時の対応力につながるのです。
また、アウトブレイクが発生した場合には、原因となる病原体の特定や、それに適した消毒方法・消毒薬の選定が求められます。まずは薬剤師が中心となって適切な薬剤の使用方法を指導し、その後、ICTが看護師を中心に実技的な対応を支援する流れが理想的だと思います。
特に中水準や高水準の消毒薬を使用する際には、取り扱いを誤ることでスタッフが熱傷を負うなどのリスクもあるため、薬剤師が中心となって、適正な希釈、消毒薬の接触時間、換気などの徹底と教育が必要です(表2)5)。ICTは感染対策だけでなく、スタッフ自身の安全を守る役割も担っており、そうした広い視点で活動することが、ICTにおける薬剤師の価値を最大限に発揮することにつながると考えています。
1)Abramson MA, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 1999; 20(6): 408-411.
2)Lee SY, et al. Infect Control Hosp Epidemiol. 2006; 27(11): 1226-1232.
3)Pittet D, et al. Ann Intern Med. 2004;141(1): 1-8.
4)大久保憲他 編集. 2025年版 消毒と滅菌のガイドライン, へるす出版, 2025. p15.
5)大久保憲他 編集. 2025年版 消毒と滅菌のガイドライン, へるす出版, 2025. p14