感染制御認定薬剤師を目指すためのキャリア戦略

東京大学医学部附属病院薬剤部
高山 和郎 先生
感染症領域において薬剤師は、予防から治療まで院内外を問わず、様々な場面で多岐にわたる役割が期待されています。そのためには抗菌薬の適正使用をはじめ、豊富な専門知識と経験が不可欠です。
Vol.11では、「感染制御認定薬剤師」を中心に認定制度の意義や資格取得を目指すためのロードマップについて、キャリア戦略の視点から解説します。
目次
- 感染制御関連の薬剤師認定資格
- 感染制御認定薬剤師(PIC)の申請要件
- 感染制御認定薬剤師(PIC)を取得するメリット
- 資格取得に向けたロードマップ①まずはジェネラリストとしての地固めを
- 資格取得に向けたロードマップ②高い関心を集める感染症領域
- 資格取得に向けたロードマップ③資格取得に向けた学習法
感染制御関連の薬剤師認定資格
病院薬剤師の感染制御に関わる主な認定資格には、日本病院薬剤師会(日病薬)が認定する「感染制御認定薬剤師(PIC:Board Certified Pharmacist in Infection Control)」および「感染制御専門薬剤師(ICPS:Board Certified Infection Control Pharmacy Specialist)」と、日本化学療法学会(日化療)が認定する「抗菌化学療法認定薬剤師(IDCP: Infectious Disease Chemotherapy Pharmacist)」があります。
日病薬のPICおよびICPSは、感染制御に関する高度な知識、技術、実践能力により、感染制御を通じて患者が安心・安全で適切な治療を受けるために必要な環境の提供に貢献するとともに、感染症治療に関わる薬物療法の適切かつ安全な遂行に寄与することを目的としています1)。これに対し、日化療のIDCPは、抗菌化学療法(抗ウイルス薬、抗真菌薬も含む)に関する十分な知識および技能を有する認定薬剤師を養成し、至適な抗菌化学療法を通して、国民の健康に貢献することを目的としています2)。すなわち、PICおよびICPSは感染対策と感染症診療・治療の両面を専門領域とする薬剤師である一方、IDCPは抗菌化学療法に特化した薬剤師と位置付けられます。ちなみに、日病薬が主催する感染制御に関する講習は理論を学ぶプログラム、日化療の認定講習は実際の症例を基にしたディスカッション形式です。
感染制御認定薬剤師(PIC)の申請要件
PICに認定されるためには、表に示す9つの要件を満たす必要があります。
要件の(1)~(4)は、専門性の前に、まず薬剤師としての幅広い見識と経験、すなわちジェネラリストとしての基礎能力が問われていることを意味します。その上で、専門性に関する要件として(5)~(7)が求められます。これに加え、(8)病院長あるいは施設長の推薦があり、(9)日病薬が実施するPIC認定試験に合格して、PICと認定されます。
このように、PICは、「ジェネラリストとしての基盤」「専門領域での実践経験」「体系的な知識習得」という3つの要素によって構成されています。25年10月1日現在、PICの認定者数は1,070名であり、年間約100名強が新たに認定されています。
なお、ICPSは、PICの上位資格に位置付けられ、PICが医療現場での感染制御活動への参画が期待されているのに対し、ICPSはさらに研究・教育面での貢献も重視されます。したがって、取得にはPICであることが必須条件で、その上で、学会発表や論文執筆といった学術的な実績が追加要件として求められます。臨床実践能力に加え、学術的なリーダーシップを発揮できる、より高度な専門性を示す資格と言えます。

感染制御認定薬剤師(PIC)を取得するメリット
PICを取得するメリットを語る上で重要なのは「認定取得は目的ではなく、結果である」という視点です。PICの認定要件を満たすためには、薬剤師としての日々の幅広い業務に真摯に取り組むこと、および感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)等での活動を通じて感染症例に向き合うことが必要です。薬剤師としてのジェネラルな活動、そして、感染制御に関わる活動を通して知識やスキルを地道に習得していくプロセスの結果が、認定の取得につながるのです。このプロセスを経ることこそが、この制度の意義であり、薬剤師としてのキャリアアップにつながる本質的なメリットです。そして、そのスキルを医療の質的向上に活かすことが大切であり、それが最大のメリットと言えるでしょう。
また、PICを取得することで、「感染制御のエキスパート」という自身の明確な軸を持てるというメリットもあります。これは、日々の業務へのモチベーションを高めますし、薬剤部門スタッフからの相談応需やICT活動、学会への参加や発表等の活動を通じて、周囲からの信頼を得ることにもつながります。さらに、プロフィールにPICと明記することで自己の専門性を外部にアピールできます。その結果、専門家として意見を求められたり、講師などの依頼を受ける機会が増えるなど、仕事の幅が広がる可能性にもつながります。
資格取得に向けたロードマップ①
まずはジェネラリストとしての地固めを
資格取得に向けた具体的なロードマップとして、若手薬剤師の場合、まず優先すべきは、特定の分野に偏らず多様な領域に対応できる「ジェネラリスト」としての基礎を固めることです。薬剤師として身につけるべき知識は膨大であり、日々の業務を通じてその基盤を着実に築いていく必要があります。抗菌薬はもちろん、がん、栄養管理など、処方される多種多様な薬剤の調剤や関連業務に真摯に取り組み、一つひとつ知識を吸収し、理解を深めていく地道な努力が求められます。このジェネラリストとしての「地固め」は、最初の数年間は当然のこと、薬剤師としてのキャリアを通じて継続的に行うべき重要なプロセスです。
こうして幅広い業務経験を積む中で、自ずと自身の興味や関心が向く分野、あるいは得意とする分野が見えてきます。また、病院内の部署ローテーションなどを通じて、特定の分野に深く関わる機会も得られるでしょう。すなわち、まずはジェネラリストとしての確固たる基盤を築き、その中でご自身の専門性を見出すことが最初のステップとなります。
資格取得に向けたロードマップ②
高い関心を集める感染症領域
薬剤師が専門性を追求する上で、がん領域や感染症領域など多様な選択肢がありますが、中でも感染症分野は、多くの薬剤師が高い関心を寄せる領域です。その主な理由は、日常業務において診療科を問わず感染症治療を経験する機会が多いとともに、抗菌薬治療の考え方が難しいと考える薬剤師が多い点にあります。がん治療のように標準的なプロトコルがある程度確立されている分野と違い、感染症では患者個々の状態を見ながら、時には原因菌が特定できない状況下で、最適な薬剤選択と投与設計を行う必要があります。この難しさが、逆に多くの薬剤師の探求心を刺激しているのでしょう。事実、東京都病院薬剤師会が主催する専門研修会においても、感染症領域は常に最も人気が高く、基礎から学びたいという薬剤師のニーズの高さがうかがえます。
感染症領域の専門性を深めたいと考えたら、主体的に知識の習得に励み、その知識を日々の業務に活かすよう努めましょう。こうした努力が周囲に伝われば「感染管理を任せよう」 という流れが自然に生まれてきます。そして、次の段階として、ICTや抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)など、院内の感染管理活動へ本格的に関与していく機会が生まれます。
感染管理に本格的に携わるようになると、日常的に多様な感染症事例に直面します。その都度、関連文献にあたり、医師や看護師といった多職種と緊密に連携・議論しながら、最適な対応を追求していくことになります。こうした実践経験を、最低でも3年間は集中的に積み重ねることが重要です。この期間に得た個々の症例経験は、記録し、分析し、次に活かせるよう知識やスキルとして体系的に蓄積していきましょう。この蓄積はPICの認定申請に求められる症例報告の質を高める基盤にもなります。
資格取得に向けたロードマップ③
資格取得に向けた学習法
このようにPIC取得に向けた学習は、短期間での詰め込みが通用する試験勉強とは根本的に異なります。最も重要かつ効果的な学習法は、日々の臨床現場での実践を通じて得た知識の地道な積み重ねです。日常業務で遭遇する一つひとつの感染症例に真摯に向き合い、関連文献の調査・評価、そして医師や看護師など多職種との積極的な意見交換を継続的に行うことで、知識や考察力、実践的なスキルが身についていきます。
しかしながら、所属する施設の特性によっては、経験できる感染症に偏りが生じます。例えば、急性期医療を中心とする病院と、慢性期病院や介護施設を併設する病院とでは、日常的に遭遇する感染症の種類や対応が異なります。この経験の偏りを補い、より幅広い知識・スキルを習得するためには、外部の知見を取り入れる工夫が不可欠です。そのためには、日本環境感染学会や日本感染症学会、日本化学療法学会などの関連学会への参加や学術雑誌の購読を通じて、他施設の多様な症例報告や最新の研究成果に触れることが有効です。また、学会への参加は他施設の薬剤師や、感染制御に関わる医師、看護師、臨床検査技師といった他職種との情報交換や相互学習の機会にもつながります。
さらに、関連学会や各都道府県の病院薬剤師会が主催する講習会や研修会、近年普及しているeラーニングなども、知識の補強や最新情報の入手に役立ちます。特に症例ベースの研修会は、実践的な学びの機会となるでしょう。
体系的な知識習得ももちろん必要です。そのための参考書としては、日病薬が発行する「薬剤師のための感染制御マニュアル」3)がお薦めです。こちらの内容は認定試験の出題範囲にもなっています。日化療の「抗菌薬適正使用生涯教育テキスト(第3版)」4)なども良いでしょう。
PICへの道は、日々の地道な実践と幅広い学びの継続が求められます。しかし、その先には患者さんや医療環境を感染から守りながらキャリアアップを叶えられる未来が待っています。ぜひ、このやりがいのある分野に挑戦していただきたいと思います。
1)日本病院薬剤師会ホームページ
https://www.jshp.or.jp/certified/kansen.html(2025年5月閲覧)
2)日本化学療法学会ホームページ 抗菌化学療法認定薬剤師制度規則
https://www.chemotherapy.or.jp/modules/qualification/index.php?content_id=16(2025年5月閲覧)
3)日本病院薬剤師会 監修:薬剤師のための感染制御マニュアル 第5版 薬事日報社:2023年
4)日本化学療法学会 抗菌化学療法認定薬剤師認定委員会 編:抗菌薬適正使用生涯教育テキスト(第3版)~ 日本化学療法学会:2020年

感染制御との出会い
約25年前、まだ世の中に病棟薬剤師が珍しい時代、私は東京大学医学部附属病院(東大病院)の循環器病棟の薬剤師となりました。その後、東大病院でICTが設立されることになった際、ICTに薬剤師を加えることになり、私が指名されました。ICTも全国に先駆けての設置でしたので、私自身「ICTって何?」という状態で、初めてICTルームへ向かう日はかなり緊張していたことを覚えています。
感染制御については、そこから日々の業務を通じて少しずつ学んでいきました。今思えば、病棟業務を経験していたことで、医師や看護師とのコミュニケーションやチーム医療に慣れていたことが大きな強みとなっていたようです。
病棟薬剤師としての実績がICTへの参加につながり、今このようなお話をする機会に至っていることは、やはり日々の業務に真摯に向き合うことで得られた知識と経験の蓄積の結果と実感しています。