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Infection Control vol.12摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎の病態

監修:昭和医科大学江東豊洲病院
耳鼻咽喉科教授・診療科長
木村 百合香 先生

摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎の病態


昭和医科大学江東豊洲病院
耳鼻咽喉科教授・診療科長
木村 百合香 先生

誤嚥性肺炎は、2024年の人口動態統計によると死因順位第6位で1)、年々増加傾向を示しています2)。7年ぶりに改訂された「成人肺炎診療ガイドライン2024」3)では「誤嚥性肺炎」の項目が新設されました。急性期病院でも誤嚥性肺炎の予防および対応は大きな課題であり、感染制御薬剤師(ICP:Infection Control Pharmacist)の先生方も治療や予防に携わる機会が増えているのではないでしょうか。vol.12では、誤嚥性肺炎の主な要因の一つである摂食嚥下障害について専門家に解説をお願いしました。

目次

入院中の摂食嚥下障害対策が重要視される理由

入院中の摂食嚥下障害対策には、主に栄養管理と医療安全、二つ観点があります。入院患者が誤嚥を起こすと、窒息など生命に直結する重大な影響が生じます。また、入院後48時間以降に発症する院内肺炎は3)、嚥下機能の低下がその主要な要因の一つです。特に免疫能が低下した入院患者にとって、摂食嚥下障害への適切な評価と対策は感染予防の観点からも極めて重要です。

摂食嚥下の5期モデル

摂食嚥下機能には、①先行期(認知期)、②準備期(咀嚼期)、③口腔期、④咽頭期、⑤食道期という5つの段階(ステージ)があります()。それぞれのステージで、障害の原因や問題点が異なります。

先行期(認知期):視覚、嗅覚、触覚などにより食物を認識する段階。認知機能の低下やうつ状態などにより食物が認識できなくなったり、食欲が低下することが障害の原因となります。
準備期:口腔内に食物を送り込み、咀嚼し、食塊を形成する段階。歯科疾患、神経疾患、頭頸部腫瘍の手術などにより咀嚼機能が低下することが障害の原因となります。
口腔期:舌を使って食塊を咽喉頭へ送り込む段階。パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患による舌や口唇の運動機能の低下や、頭頸部腫瘍の手術などによる口腔内の器質的変化が障害の原因となります。
咽頭期:食塊を咽喉頭から食道へ送り込む段階。脳血管障害、神経疾患、筋疾患、認知機能の低下などといった幅広い疾患が障害の原因となります。特にレビー小体型認知症は、パーキンソン病との併発によりこの段階における機能を著しく低下させることがあります。加齢による影響を最も受けやすい段階でもあります。
食道期:食塊を食道から胃へ送り込む段階。食道がん、胃食道逆流症、食道アカラシアなどの疾患や、加齢による食道蠕動機能の低下が障害の原因となります。

このように、各段階での障害は多様な原因によって引き起こされており、どの段階でどのような問題が生じているのかを把握することが、適切な介入につながります。

摂食嚥下障害のスクリーニング

多くの病院では摂食嚥下障害リスクの高い患者を早期に見出すために摂食嚥下障害スクリーニング検査が導入されていますが、侵襲のない摂食嚥下障害スクリーニング方法として聖隷式嚥下質問紙(表1)やEAT-10(摂食・嚥下障害臨床的重症度評価尺度)が多くの施設で使用されています。

薬剤師の先生方にはこれらのスクリーニングの他に、薬剤管理や服薬状況の確認をお願いします。薬剤が飲めているかどうかは、咀嚼の影響を受けにくく、咽頭期と食道期の嚥下機能と密接に関連するため、嚥下状態の把握にも役立ちます。また、薬剤が口腔や咽頭内に残存している場合は、治療効果にも影響しますので、そういった意味からも服薬状況の確認は極めて重要です。

高齢者に多い摂食嚥下障害

摂食嚥下障害の発症要因の一つが加齢です。高齢者では全身的な機能低下に加え、基礎疾患を複数抱えるケースが多くなるためです。例えば、脳神経内科領域では脳卒中や神経変性疾患が、摂食嚥下障害の主要な要因として挙げられます。頭頸部疾患では、摂食嚥下に直結する機能が障害されることがあります。消化器疾患や呼吸器疾患も摂食嚥下機能に大きな影響を与え、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)等で喀痰排出能力が低下している方は、嚥下機能も低下しやすいことが知られています。近年は薬剤性の摂食嚥下障害も頻繁に観察されています。加えて、サルコペニア(筋力低下)やフレイル(虚弱)などの全身的な機能低下が口腔や咽頭の局所的な機能低下と相まって、病態をさらに複雑化させています(表2)。

誤嚥性肺炎の臨床的特徴

誤嚥性肺炎は摂食嚥下障害により、本来食道に送り込まれるべき食物や唾液が気管に入り、肺に到達して炎症を起こす疾患です。

誤嚥の原因の一つとして、摂食嚥下機能と食事形態の不適合があります。

また、誤嚥性肺炎の患者の中には、むせない不顕性誤嚥を繰り返すことで発症している方も少なくありません。不顕性誤嚥は咽喉頭感覚の低下や咳反射の減弱により食物や唾液を気づかないうちに誤嚥している状態ですが、就寝中に多いこともあって、誤嚥性肺炎と判断されにくいケースが多く、特に高齢者では注意が必要です。反対に誤嚥があっても喀出能力が保たれている場合は、高齢者でも肺炎に至らないケースもあります。

誤嚥性肺炎は高齢者に多く見られますが、中でも認知機能が低下している方、免疫能の低下している方、フレイルやサルコペニアの方は特に留意が必要です(表3)。

1)厚生労働省 令和6年(2024)人口動態統計

2)厚生労働省 患者調査

3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン 2024 作成委員会. 成人肺炎診療ガイドライン 2024. メディカルレビュー. 2024:62.

4)摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発 日摂食嚥下リハ会誌6(1):3-8,2002

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