消毒薬の基本原則と実践のポイント

東北医科薬科大学薬学部臨床感染症学
教授 藤村 茂 先生(写真右)
東北医科薬科大学薬学部臨床感染症学
講師 河村 真人 先生(写真左)
感染制御においては、消毒薬の適正使用が抗菌薬の適正使用と並び、極めて重要な役割を担っています。しかしながら、消毒薬の不適切な使用により、取扱者や周囲の人々に有害な影響を及ぼす事例や、消毒が不十分であったためにかえって感染源となった事例が、依然として報告されています1)。こうした現状を踏まえ、感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)、とりわけ感染制御薬剤師(ICP:Infection Control Pharmacist)には、消毒薬の管理と使用に関する適切な指導を行い、全医療従事者への教育と周知を徹底することが強く求められています。
Vol.16では医療や介護の現場で見られる誤った使い方と、その背景にある誤認や運用上の課題をひもときながら、適正使用の基本原則と実践のポイントを探ります。
目次
- 「濃度」「温度」「時間」を意識した適切な消毒の実施
- 濃度調整ミスの人的要因
- 器具消毒における接触時間の確保と課題
- 混合使用に伴う見落としや誤解
- 次亜塩素酸ナトリウムの適切な使用法
- 人への使用における消毒薬の選択と手指衛生の留意点
- 消毒処理への過信は、感染拡大のリスクを高める要因
「濃度」「温度」「時間」を意識した適切な消毒の実施
消毒を効果的に行うためには、消毒薬の特性と対象物の性質を十分に理解したうえで、「濃度」「温度」「時間」の3要素を意識して使用することが重要です2)。
まず濃度については、各消毒薬に定められた適正濃度を守ることが基本です。使用場面を常に意識し、対象がウイルス、一般細菌、芽胞形成菌など、どの微生物であるかによって、選択すべき薬剤や濃度が異なります。さらに、近年注目されているバイオフィルム形成菌への対応も考慮する必要があります。濃度が低すぎると十分な効果が得られないため、常に適正濃度を維持することが求められます。
次に温度ですが、消毒薬の種類によって最適な使用温度は異なるものの、一般的には20~30℃(室温程度)での使用が望ましいとされています。低温環境では消毒効果が低下するため、保管時や使用時の温度管理も重要です。保管時と使用時の最適温度が異なることもあるので使用環境に応じた温度管理の徹底が、消毒効果の安定につながります。
消毒薬と微生物の接触時間も、消毒効果に影響を与えます。必要な接触時間は薬剤の種類や対象微生物によって異なります。接触時間が不十分だと、目的とする微生物が死滅せず、消毒効果が得られませんので、必要な接触時間を確認し順守することが大切です。一般的に芽胞形成菌、結核菌、非エンベロープウイルスは消毒薬に対し抵抗性が強いため接触時間を長く保つ必要があります。
濃度調整ミスの人的要因
消毒薬の適正濃度については広く認識されているものの、実際の現場ではヒューマンエラーによる濃度の過不足が頻繁に見られます。特に薬剤師が関与していない場面では注意が必要です。病棟や施設など薬剤師が不在の環境では、%やppmといった濃度表示の理解不足から希釈単位の誤認、倍率計算の間違いなどが起こりやすくなります。また、目分量で濃度調整を行っている施設も散見され、こうした人的要因が濃度調整ミスの主な原因となっていると感じています。
濃度調整時の手順も効果に影響を与える可能性があります。水を先に入れるか、消毒薬を先に入れるかといった順番によって、濃度や混合状態が変わることもあるため、工程の一つひとつに注意が必要です。人が関与する以上、誤りが生じやすいという前提を改めて認識し、手順の標準化と確認体制の整備が求められます。
消毒薬に関する知識不足の一例として、「濃度が高いほど効果がある」という誤解が挙げられます。薬剤師であれば、アルコールは約80%前後が最も効果的である3)ことなど、適正濃度に関する理解がありますが、ときに「濃い方が効く」という感覚で調整されることが少なくありません。その結果、適正濃度を逸脱し、期待した効果が得られないことが起こっている可能性もあり得ると思います。
さらに、「困ったらとりあえずエタノールを使えば安心」といった認識も根強く、消毒薬の選択が画一的になりがちです。次亜塩素酸ナトリウムは安価で汎用性が高いため多くの施設で使用されていますが、「塩素臭がすれば効いている」と誤解されることもあります。実際には、塩素臭が強い場合、薬液が分解されて残存塩素が減少している可能性があり、十分な効果が得られていないことも考えられます。
これらの誤認は、消毒薬の特性や適正使用に関する知識の不足に起因するものであり、現場での教育や情報共有の重要性を改めて痛感しています。
器具消毒における接触時間の確保と課題
近年の高齢化に伴い、慢性的な疾患を抱え長期的な療養が必要となる患者さんが多くなっています。そのため、経管栄養用ボトルなどをディスポーザブルではなく再使用する場面も少なくありません。
こうした器具を消毒液に浸漬する際、軽量な容器は浮いてしまい、全体をしっかり浸すことが難しい場合があります。本来であれば、十分な接触時間を確保し、確実に消毒することが必要ですが、現場では管理が徹底されていないこともあります。これもヒューマンエラーの一つといえるでしょう。
だからこそ、消毒の手順や接触時間を守ること、そして人の目でしっかり確認しながら対応することが重要です。現場の状況に則した工夫と、継続的な教育が不可欠だと感じています。
混合使用に伴う見落としや誤解
混合使用に関するピットフォールとして、2点ほど医療現場でよく話題になる事例をご紹介します。まず1つ目は、処置後の手洗いと手指消毒についてです。現場では、ときに処置後にディスポーザブル手袋を外した後、速乾式手指消毒薬で消毒し、その後に流水と石けんで手を洗う場面が見受けられます。このとき、手指消毒薬の成分に塩化ベンザルコニウム(第4級アンモニウム化合物=逆性石けん)が含まれていると、問題が生じることがあります。石けんは陰イオン界面活性剤であり、逆性石けんとは反応して効果を相殺してしまう可能性があるためです。
そのため、速乾式手指消毒薬を使用直後に石けんを使った手洗いは避けること、その逆で手洗いが先行した場合は、必ずペーパータオルなどで水分をしっかり拭き取ったうえで、速乾式手指消毒薬を使用することが重要です。
2つ目は、術野の消毒に関する事例です。以前はポビドンヨードが主流で、着色されているため塗布範囲が視認しやすく、塗りムラを防ぐことができるという利点がありました。最近では、クロルヘキシジンとアルコールの混合製剤が使用されることが増え、誤用防止のために薄いオレンジ色などの着色が施されています。しかしながら、ポビドンヨードほど色が濃くないため、消毒したつもりでも塗り残しが生じる可能性があります。
こうした混合使用に伴う見落としや誤解は、現場で注意すべきピットフォールとして認識すべきと思います。
次亜塩素酸ナトリウムの適切な使用法
次亜塩素酸ナトリウムは、家庭でも広く使用されている消毒薬であり、取り扱いが比較的容易な一方で、金属の腐食や塩素ガスの発生による健康被害といったリスクも伴います。そのため、使用時には十分な換気を行うとともに、特に嘔吐物の処理など緊急性の高い場面では、個人防護具を着用し、安全を確保したうえで対応することが重要です。医療現場では、こうしたリスクを踏まえ、チームで連携しながら適切に使用することが求められます。
また、次亜塩素酸ナトリウムはノロウイルス対策に有効であるという認識が一般にも広まっていますが、誤った使い方も少なくありません。たとえば、「ノロウイルスにはアルコールが効かない」という情報が独り歩きし、患者対応後の手洗いに次亜塩素酸ナトリウムを希釈した液を用いる話を聞いたことがあります。しかし、これは極めて危険な誤用です。次亜塩素酸ナトリウムは環境表面の消毒には有効ですが、人体への使用には適しておらず、皮膚のタンパクや脂質の変性、化学熱傷などの健康被害を引き起こします。したがって、ノロウイルス対策としては、手指の衛生には石けんと流水による丁寧な手洗いを徹底し、次亜塩素酸ナトリウムはあくまで環境消毒に限定して使用することが原則です。
人への使用における消毒薬の選択と手指衛生の留意点
手指衛生においては、基本的に、手に目立つ汚れがなければ手洗いを省略し、アルコールによる手指消毒だけでも問題ないとされています。もちろん、手洗いが可能であれば行うべきです。現場の視点から見ると、頻繁な手洗いや消毒によって手荒れが起こりやすくなります。手荒れは皮膚のバリア機能を低下させ、感染リスクを高める要因となるため、アルコール消毒と併せて、汚染の温床とならない成分のハンドクリームで手を保護することが望ましいです。ただし、市販のハンドクリームには細菌の増殖を促す成分が含まれている場合もあるため、普段使っているものを医療現場でそのまま使用するのは慎重に検討すべきです。使用前に成分を確認し、必要に応じてICTの薬剤師等に相談しながら選ぶことが重要です。
実際に、病院によっては看護師が個人専用のハンドクリームを持つようにしているところもあれば、病棟に共用のものを設置しているケースもあります。後者では、共用クリームが菌の温床となり、汚染が発生した事例も報告されています。こうした背景からも、ハンドクリームは個人専用のものを使用するのが望ましいという流れになってきています。
消毒処理への過信は、感染拡大のリスクを高める要因
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)をはじめとする院内感染の原因となる多剤耐性菌への対応を考える際、まず注目すべきは、これらが接触感染を引き起こす病原体である点です。特にMRSAは医療従事者の手指を介して感染するケースが多く、アルコール系手指消毒薬による確実な手指衛生の徹底が不可欠です。
緑膿菌は水回り環境を好み、シンクや浴室、汚物処理室など水が滞留しやすい場所で繁殖します。こうした環境では消毒薬が水によって希釈される可能性があるため、環境消毒においては濃度設定が重要です。緑膿菌対策としては、消毒薬の濃度をやや高めに設定することが効果的とされています。日本国内では、多剤耐性緑膿菌によるアウトブレイクの原因菌が、内視鏡の微細な傷の内部に潜んでいた事例も報告されています。こうした傷は見た目では気づけないので、傷の有無をチェックする手順を決めることも大切です。消毒薬に浸漬しても傷の内部まで薬剤が届かない可能性があるので、傷があれば菌がいると認識し、交換することをお勧めします。医療従事者が「適切に消毒した」と認識していても、器具の微細な損傷や菌の潜伏の可能性を常に意識することが重要です。消毒処理への過信は、感染拡大のリスクを高める要因となり得ます。
このほか芽胞形成菌である Clostridioides difficileは、一般的な消毒薬では効果が期待できません。院内感染予防に最も有効とされているのは次亜塩素酸ナトリウムであり、環境消毒にはこれに加えて、ペルオキソ一硫酸水素カリウムを主成分とする除菌洗浄剤(RST)も使用されています。
C. difficile感染患者は原則として個室管理が推奨されており、ベッド柵や床頭台などの環境表面にはRSTが使用されます。これらには十分な効果が期待されますが、体温計などの医療器具には効果が限定的であるため、ガイドラインでは患者専用器具として共用を避けるよう示されています4)。なお、エタノールなどの一般的な消毒薬は C. difficileには無効であるため、使用には注意が必要です。
また、患者退室後の環境消毒は、毎回の実施はコスト面から推奨されていませんが、院内で複数の感染者が発生した場合、いわゆるアウトブレイク時には「ターミナルクリーニング」が重要となります。これは、患者の退院や転室後に次亜塩素酸ナトリウムによる手作業の消毒を行い、可能であれば紫外線照射機器や過酸化水素噴霧装置などを用いて無人状態で殺菌処理を行う方法です。十分な換気を経てから次の患者を受け入れるという流れが、現在では標準的な対応として確立されつつあります。
1)尾家重治 監修:消毒剤マニュアル ─消毒剤の特徴・使用法・使用上の留意点─,山口大学医学部附属病院薬剤部 第五版,健栄製薬株式会社,2012.
2)小林寛伊,大久保憲,尾家重治:消毒と滅菌のガイドライン,新版増補版,へるす出版,2015. p12.
3)厚生労働省:第十八改正日本薬局方 消毒用エタノール
4)Clostridioides difficile 感染対策ガイド 一般社団法人日本環境感染学会 Clostridioides difficile 感染対策ガイドライン策定委員会編 環境感染誌,37. Suppl. II. 2022.