北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室
北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター生体制御学 助教
小林 義和 先生
コメンテーター:
北里大学 北里研究所病院 薬剤部/感染管理室
北里大学 薬学部 臨床薬学研究・教育センター 生体制御学 助教 小林 義和 先生
北里大学 北里研究所病院 薬剤部/感染管理室/医療安全管理室 及川 雄太 先生
順和会 山王病院 薬剤部 副主任 長谷川 敦 先生
vol. 9では、感染対策向上加算取得施設における実践的取り組みの前編として、感染対策向上加算制度の解説とともに、感染対策向上加算1取得施設である北里大学 北里研究所病院、加算2取得施設である順和会 山王病院において、感染防止対策を担う薬剤師の先生方に、それぞれの施設における多職種による感染制御チームの取り組みやサーベイランスデータの活用の実際について伺いました。
北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室
北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター生体制御学 助教
小林 義和 先生
北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室/医療安全管理室
及川 雄太 先生
順和会 山王病院薬剤部 副主任
長谷川 敦 先生
感染対策向上加算制度は、個々の医療機関等における感染防止対策の取り組みや地域の医療機関等が連携して実施する感染対策の取り組みを推進するための診療報酬上の仕組みです1)。この制度は、医療関連感染の予防と管理を強化し、患者安全を確保することを目的に、医療機関の規模や機能に応じ施設基準を加算1~3の3段階に設定し、地域全体の感染対策レベルの底上げと医療機関間の連携強化を図ります。
主な施設基準として加算1は、
加算2は、
加算3は、
このように感染対策向上加算制度には、それぞれの医療機関が自らの役割に応じた感染対策を実施しながら相互に連携することで、医療サービス全体の質向上と安全確保に貢献する意義があります(図1)。
小林 現在、北里研究所病院では感染対策向上加算1を取得しています。もともと感染対策向上加算1を算定しており、抗菌薬適正使用に関する取り組みは以前から積極的に行っていましたが、抗菌薬適正使用支援加算の算定要件としては不十分でした。2022年度の感染対策向上加算への改定の際に、この要件を満たすための協議を院内で行い、感染対策に従事する薬剤師と臨床検査技師を増員することで感染対策向上加算1を算定できる体制を整えました。
長谷川 山王病院では、2024年度から加算2を取得しています。それ以前は加算3を算定していましたが、事務部門と協議の結果、より充実した感染防止対策を目指して加算2に引き上げることにしました。
小林 当院では抗菌薬適正使用支援チーム(AST)と感染制御チーム(ICT)を設置していますが、基本的に同じメンバーで構成されています。医師1名、看護師2名、薬剤師4名、臨床検査技師3名、そして事務職2名(他業務と兼務)という体制です。
ASTの活動の主軸は週1回のカンファレンスです。
カンファレンスでは届出制抗菌薬の使用などの対象症例について、カルテを閲覧しながら治療方針を詳細に議論します。多職種でのカンファレンスは、薬剤師だけでは把握しきれない病態の見方、検査におけるピットフォールや稀な病原微生物の特性など、他職種の視点を学ぶことができるためとても有意義です。そして、この議論から導かれた推奨事項をカルテに記載します。しかしながら、主治医にカルテの記載を見てもらえなかったり、見てもらえても意図が伝わらなかったりすることもあります。当院のような規模の病院では、病棟常駐の医師がいないため、ASTと主治医が直接議論できる機会が少ないのが悩みと言えます。
及川 とは言え、ほとんどのフィードバックはスムーズに伝わっており、しっかり受け入れられています。これは、すべての職員が協力し合う効率的かつ円滑な組織運営が実現しているためで、これが当院の最大の強みだと考えています。
小林 主治医への推奨事項の伝達が不十分であるという問題をチーム内で検討し、対策として病棟薬剤師に協力を得ることにしました。当院は病棟薬剤業務実施加算などの算定が付く前の2000年代前半から病棟薬剤業務に力を入れ、病棟薬剤師を常駐させていますので、薬剤師を介した情報伝達は効率的でした。それでもうまくいかない場合は、ASTのリーダー医師と主治医に直接協議をお願いすることもあります。
長谷川 当院は病床数が少なく完全個室であることもあり、ASTは設置していませんが、抗菌薬の適正使用には注力しており、特に重症感染症に対する抗菌薬処方があった場合には、積極的に報告を受け、患者の状態を適宜確認し、必要に応じて担当医と直接コミュニケーションを取れる体制を整えています。
小林 主に抗菌薬使用量や院内微生物の感受性パターンといったサーベイランスデータを分析し、当院に加え北里大学メディカルセンターと北里大学病院の関連病院2施設を含めた3病院で設立した感染管理部会で相互報告する活動を行っています。このデータに医療関連感染のサーベイランスデータなどを加えたものを基にして、院内のASTおよびICTで問題点を検討し、次年度の活動方針を決定します。こうした取り組みによりチーム内での問題点や方向性を共有しています。
最近の例では、広域スペクトラム抗菌薬であるタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)の使用量削減が難しいという問題を共有しました。TAZ/PIPCはペニシリン系抗菌薬であることから届け出対象外としていましたが、ASTの監視対象として使用症例をカンファレンスで取り上げるようにしたところ、カルバペネム系抗菌薬の使用量に減少傾向が見られました(図2)。学術的に直接的な因果関係は証明できないものの、おそらく、TAZ/PIPCをチームでモニタリングすることにより、カルバペネム系抗菌薬へのエスカレーションを回避できる症例が増えたのではないかと推察しています。このように、データ分析から使用量の変化を追跡することで、継続的な改善ができていると考えています。感染対策を支援するための感染対策連携共通プラットフォーム(J-SIPHE)については昨年6月から参加し、運用を始め抗菌薬使用量などの推移を見ています。また、J-SIPHEは地域連携における薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策での活用を検討しているところです。
長谷川 山王病院でも昨年J-SIPHEに加入し、抗菌薬の使用量やニーズなどのデータを登録しています。当院は国際医療福祉大学のグループ病院となっており、北里大学北里研究所病院との合同カンファレンス以外にも、国際医療福祉大学成田病院、国際医療福祉大学病院、国際医療福祉大学塩谷病院を含めた4病院で年4回の合同カンファレンスを実施しています。このカンファレンスではJ-SIPHEのデータをグループ化して共有し、各施設の抗菌薬使用状況を把握しています。これにより、各施設における抗菌薬の使用傾向や特徴が明らかになっています
次号(vol.10)では教育・研修プログラムや人材育成についてお話を伺います。