北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室
北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター生体制御学 助教
小林 義和 先生
コメンテーター:
北里大学 北里研究所病院 薬剤部/感染管理室
北里大学 薬学部 臨床薬学研究・教育センター 生体制御学 助教 小林 義和 先生
北里大学 北里研究所病院 薬剤部/感染管理室/医療安全管理室 及川 雄太 先生
順和会 山王病院 薬剤部 副主任 長谷川 敦 先生
医療機関における感染制御の標準化は、診療報酬においては感染対策向上加算という形で推進が図られていますが、感染対策向上加算の算定には、施設内の感染防止体制の充実と地域連携が求められます。
vol.10では、感染対策向上加算取得施設における実践的取り組みの後編として、感染対策向上加算1取得施設である北里大学 北里研究所病院、加算2取得施設である順和会 山王病院における院内ラウンドの工夫、教育・研修の実施方法、地域ネットワークの活用事例、そして感染対策を担う人材育成などの取り組みをご紹介します。
北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室
北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター生体制御学 助教
小林 義和 先生
北里大学北里研究所病院薬剤部/感染管理室/医療安全管理室
及川 雄太 先生
順和会 山王病院薬剤部 副主任
長谷川 敦 先生
小林 北里研究所病院の感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)で行う週1回の病棟ラウン ド(写真)では、事前に各病棟のリンクナースに自部署の感染対策状況について「できている」「できていない」を自己評価し、提出していただいています。ICTは、それを基に現場を確認し、写真付きの報告書を作成して具体的なフィードバックを行っています。この報告書は月1回の感染対策委員会にも提出されるため、管理者にも情報共有されます。
また、ICTの院内ラウンドはASTカンファレンスの後に続けて実施することで、メンバーが再び集まる負担を減らす工夫をしています。ただし、まとめて行うことで時間的な制約がでてきますので、ラウンドを行う全病棟に対して、「今日はこの部分を重点的にチェックしましょう」と、ポイントを絞って進めています。また、病棟のリンクナースから事前に自己評価表を提出していただくことで、一方的な介入にならないように努めています。一方、ICT活動の範囲には病棟以外も含まれるため、月に1回別の日を設け、手術室などのハイリスクな所を中心に病院内の様々な部署をチェックしています。このように重点的かつ効率的に活動を進めることで、全体的な感染対策の強化を図っています。
長谷川 山王病院でも基本的に院内感染ラウンドを週1回実施していますが、やはりリンクナースに事前にチェックリストを用いた自己評価を行っていただき、それを参考にしながら現場を確認しています。月1回の院内感染対策委員会で情報共有するという流れも同様です。
当院のICTも、毎週ポイントを絞って異なる箇所をラウンドしています。基本的に医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師の4職種が参加しています。
小林 抗菌薬適正使用に関する研修会を年2回開催しています。時間の融通が利くようにオンラインシステムを利用した配信形式で実施しています。
及川 新卒者や中途採用者に対しては、感染対策の手引きを渡して説明します。組織としての共通認識や方向性を一致させるための取り組みとしては、治療薬物モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)対象抗菌薬の投与設計を標準化したマニュアルを作成し、誰が担当しても同じ投与設計ができるよう工夫しています。
小林 当院の所在地である港区では2022年10月に「みなと地域感染制御協議会(MICC)」を立ち上げ、区内の加算1の施設が中心となり、港区医師会や港区と連携しながら、区内の医療機関や診療所と連携体制を組み、合同カンファレンスや合同訓練を実施し、地域の感染対応力向上に取り組んでいます。連携体制でのカンファレンスや訓練は、感染対策向上加算の要件でもあります。
この3年間は主に合同訓練の実施が中心でしたが、今後は薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策を視野に入れて、加算1施設の医師・薬剤師・看護師から数名を選出してワーキンググループを新設し、対策を検討することを構想しています。その先駆けとして、今年1月には医師会向けに「外来での抗菌薬の使い方」をテーマとした講演を実施しました。
地域としてのアンチバイオグラム(薬剤感受性データ)の作成にも取り組みたいと考えています。港区内の病医院には区外からの受診患者も多いため、集計の仕方は今後の課題になりますが、この地域で受診する患者から検出された菌の感受性パターンを把握することは有意義だと考えています。
長谷川 加算2の施設としては、当院の抗菌薬使用量などのデータを地域の加算1施設へ提供する形で感染対策ネットワークに貢献していますが、データの活用については加算1施設に委ねている状況です。加算1施設からフィードバックされた情報を自施設で効果的に活用できるよう現在検討しています。
小林 人材育成は非常に重要な課題だと認識しています。薬剤師全員が感染症の専門知識を持つことができれば良いですが、薬剤師の業務対象は感染症だけではないので、現実的ではない目標かもしれません。しかし、一定レベルの知識は確保したいと考えています。
薬剤師は、腎機能に応じた投与量調整などは感染症以外の薬剤でも行うため比較的得意としていますが、治療薬物モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)が関わると難しさを感じる傾向があるようです。この課題に対処するため、TDM担当を兼務する及川と協力し、TDM対象薬の初期投与量設定方法や採血タイミングなどをまとめた簡易マニュアルを作成し、薬剤部内で説明会を実施しました。これにより、TDMへの理解が深まったと感じています。
抗菌薬の適応に対する判断も薬剤師にとっては難しいことの1つです。患者の感染症状況、原因微生物、病態の重症度などの判断は、従来の薬剤師教育ではあまり行われていません。こうした知識は文書などで伝えるのは難しく、実症例から学ぶことが重要です。抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)に所属する薬剤師はカンファレンスに参加しますので、そこでの議論や質問を通じて実症例から学び、投与量だけでなく患者にとって最適な薬剤選択を理解できるようになっていきます。このような薬剤師が徐々に増えていけば、彼らがまた他の薬剤師に知識を伝えることも可能になります。このような方法で地道に人材育成を進めています。
及川 感染症の知識を高めるには、感染症を専門とする先輩薬剤師が道しるべとなり、若手薬剤師に機会を与え、親身になって指導していくことが必要だと思います。これにより興味が広がり、将来的には認定取得などにつながっていくと考えています。
長谷川 人材育成は重要課題です。当院は国際医療福祉大学の関連病院でもあり、大学と連携して研修を行ったり、大学院への進学など認定取得のための補助制度も充実しています。日常業務に追われがちになりますが、働きながら学べる環境を整えることが重要と考えます。
小林 感染対策向上加算は、薬剤師や感染対策部門だけの課題ではなく、病院全体の課題でありかつ収益にも関わる制度です。例えば抗菌薬の届け出制を薬剤部の業務と認識すると、薬剤部に負担が集中してしまいますが、当院では病院全体で取り組むべき業務であるとの合意のもとに「届け出がなければ薬を病棟に送らない」というルールを決め、文化として根付かせました。重要なのは「病院全体で病院全体のために」という考え方で合意形成しながら進めていくことだと思います。
そのためには、トップの理解と支援が必須ですが、それを得るためには伝える側が「これを実施しなければ損失が生じる」「実行すればどれだけの利益がある」といった経営的視点を持ってトップが関心を持つように伝えることが不可欠です。特に人員や予算は現場レベルでは解決できない問題なので、病院全体の課題として認識してもらえるよう、院内での適切な情報共有と理解促進が重要だと考えています。
小林 義和 先生
若いころ、病院薬剤師として何か得意な分野を持ちたいと考え、さまざまなことに挑戦する中で、巡り合った役割が感染制御でした。また、身近に感染症やTDMに精通した優秀な先輩薬剤師がおられ、その姿に刺激を受け、自分もそのような活躍ができるようになりたいと思ったことが知識を深めていくきっかけとなりました。病院内に北里大学薬学部の臨床薬物動態学の先生がいらっしゃったことも大きな要因であり、多くの方との縁があって進んでくることができたと思っています。
長谷川 敦 先生
大学病院に勤務していたとき、バンコマイシンやアミノグリコシド系抗菌薬などのTDMを経験しました。 その後、日本病院薬剤師会で感染制御認定薬剤師制度が導入され、これまでの経験が活かせるかもしれないと挑戦し、認定を取得しました。 感染制御認定薬剤師の取得は給与面でも優遇がありますので、若手の薬剤師に取得をお勧めします。

及川 雄太 先生
私の場合、人手不足のため、新卒後早い段階から感染制御や化学療法、栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)、褥瘡ケアといった多くの業務に携わる機会がありました。 当時はいろいろと模索しながら業務に取り組んでいましたが、これらの経験から後輩たちに苦労をさせない良き指導者となりたいという思いを育みました。 現在 は感染分野に携わる中で、まずは日本病院薬剤師会の感染制御認定薬剤師の取得を目指しており、後輩たちに「自分にもできる」と思ってもらえるロールモデルとなれるよう努力しています。