取材月:2025年8月
三鴨 廣繁 先生
私が2007年に当院へ赴任して以来、一貫して追求してきたのは、患者と医療従事者の双方を感染症から守るための最適な体制づくりです。その実現に向け、2013年1月に感染症科を新設いただき、医療関連感染対策の新たな仕組みを構築しました。私たちの活動の根幹には、「攻めの感染制御」と「守りの感染制御」という二つの柱があります。これらは、どちらが欠けても安全な医療は成り立たないと考えています。ただし、どちらがより重要かと問われれば、私は迷わず「守りの感染制御」と答えます。感染の拡大を制御することができれば、薬剤耐性菌が生まれても被害を最小限に留めることができる—これが私の基本的な発想だからです。
「守りの感染制御」を担うのが、感染制御チーム(ICT:Infection Control Team)です。ICTは、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員からなる多職種チームで、院内全体における微生物の伝播を防ぐための活動をしています。具体的には、院内感染の発生動向を常に監視(サーベイランス)し、手指衛生の徹底や環境整備などの基本的な対策が正しく実践されているかを確認するラウンド活動、感染対策マニュアルの整備など、その任務は多岐にわたります。ICTは、医療関連感染をゼロにすることはできないという現実を認識しつつも、「限りなく少なくするための努力を惜しまない」ことを日々の目標としています。
浅井 信博 先生
久留宮 愛 先生
一方、「攻めの感染制御」の主役は、感染症に罹患した患者を治療することであり、その中心的な役割を果たすのが、私たち感染症科と抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)です。ASTは、抗菌薬が不適切に使用されることで新たな耐性菌を生み出すことを防ぎ、すべての患者へ最善の治療を提供することを目指しています。感染症専門医、薬剤師、臨床検査技師、看護師などが連携し、各診療科で行われる抗菌薬治療が適切かどうかを専門的な視点から評価し、支援・介入します。
ICTとASTは常に密接に情報を共有しています。兼任しているメンバーも多いです。感染症の予防(守り)と治療(攻め)は表裏一体であり、この二つのチームの強固な連携こそが、当院の感染対策の土台となっているのです。
さらに、これらの活動の基盤として、近年世界的に重要性が指摘されている「診断支援(Diagnostic Stewardship)」にも力を入れています。これは、より迅速かつ正確に原因微生物を特定し、最適な治療方針を決定するための取り組みです。当院では、いち早く臨床検査部から「感染検査室」を独立させ、科学的根拠に基づいた質の高い感染症診療と感染制御を実践できる体制を整えました。
坂梨 大輔 先生
柴田 祐一 先生
感染症の診断と治療は、絶えず進化する病原体との闘いでもあります。私は、医学の世界では「有為転変」という言葉が示すように、現状に留まることなく、常に前進し続ける姿勢が重要だと考えています。特に、世界的な課題である薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策において、抗菌薬適正使用支援を担うAST、とりわけ専門知識を持つ薬剤師の役割はますます大きくなっています。
大学病院は、医育機関として、日々の臨床活動を通じて新たなエビデンスを構築する研究を行うとともに、次世代の医療を担う人材の育成という社会的使命も担っています。日本国内にとどまらず、国際的に活躍できる感染症の専門家を一人でも多く育てたいと考えています。