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DYSPHAGIA Q&A摂食嚥下障害Q&A

監修:浜松市リハビリテーション病院 
病院長 藤島一郎

ご活用事例紹介 
フェイス調剤薬局さま

01「摂食嚥下障害 質問シート」を活用した摂食嚥下障害の評価を薬剤師の武器に!

愛知県名古屋市 フェイス調剤薬局さま取材日:2018年5月21日

まずはフェイス調剤薬局さまの
業態について教えてください。

フェイス調剤薬局は、在宅を中心に活動している調剤薬局です。
名古屋市内を中心に、スタッフ13名の体制で業務を行っています。介護施設とご自宅への薬剤の訪問指導を行っています。10年程前は「薬剤師さんが(薬局の)外に出てきて何をするの?」ということを言われる介護スタッフの方も多くいらっしゃいましたが、現在では薬剤師の存在を受け入れ、必要とされている現場の方が多くなったと実感しています。

私たちの業務は、介護福祉施設にご利用者さまが入居した際の持参薬チェックから始まります。特にご自宅から直接、施設へ入られた方は、残薬をあるだけ持参されることが多く、入手した医療情報と比較して、残薬を整理し、医師の初回往診まで必要な薬があるかということもチェックします。

医師の往診には基本的に同行するようにしており、事前にご家族の方と確認したジェネリック医薬品の使用意向などをふまえ、医師と相談しながら切り替えていきます。調剤した薬をお届けする時にも、再度、ご利用者さまを訪問し、指導しています。他職種の方たちとは、FAX・電話での連絡や、サービス担当者会議でも顔を合わせて情報交換を行います。ご利用者さまが入院された場合には、退院の際のカンファレンスに出向くこともあります。

「摂食嚥下障害 質問シート」を
導入された経緯について
教えてください。

私たちが訪問指導するのはほとんどが高齢者です。以前から、嚥下障害を理由に粉砕調剤やOD錠への変更を依頼されることが増えてきており、これからは嚥下の問題に薬剤師が介入する必要性がさらに高まっていくだろうと思っていました。

また、訪問歯科の先生による勉強会で、カプセル剤が喉を通るところの動画を見せていただき、想像以上に飲み込みづらいということも学んでいました。摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎との関係も見逃せない問題です。訪問が食事の時間に重なった際には、むせ込む音などにも注意をしています。実際に、むせこんでいる方でもご自分から嚥下困難を訴えられないことも多く、一度、ご利用者さまの嚥下機能を確認してみたいと思ったのです。

質問に答えてくださる薬剤師の平松先生

どのように
ご活用されたのでしょうか?

今回はグループホームのご利用者さまに対して嚥下機能を評価する検討を行いました。
まずは、私たちが在宅訪問をしているグループホーム10施設で、「摂食嚥下障害 質問シート」を用いて嚥下機能を評価しました。また、施設を対象に嚥下体操実施の有無や、粉砕を希望する際の明確な基準の有無について聞き取り調査を行いました。

ぜひそのご検討結果について
ご紹介いただけないしょうか?

30%の方が「摂食嚥下障害の可能性が高い」という結果でした。
「摂食嚥下障害 質問シート」は、15の質問項目からなり、それぞれの項目についてその程度をA(「しばしば」など)、B(「ときどき」など)、C(なし)の3段階で評価します。A評価がひとつでもあれば「摂食嚥下障害の可能性が高い」とされます。

図1が調査の結果ですが、163名中49名(30%)の方が「摂食嚥下障害の可能性が高い」ということになりました。また、そのうち、薬剤を粉砕しているケースは39%でした(図2)。一方で、163名の中で粉砕調剤が行われていた39名(23.9%)についてA評価の有無を確認したところ、A評価あり、すなわち「摂食嚥下障害の可能性が高い」方は49%であり、粉砕調剤の希望は必ずしも嚥下障害が理由だけではなく、拒薬などが約半数を占めていることも分かりました。

図1:「摂食嚥下障害質問シート」での評価の結果(n=163)

図1:「摂食嚥下障害質問シート」での評価の結果(n=163)

第50回日本薬剤師会学術大会ポスター発表資料より
(フェイス調剤薬局 平松先生より提供)

「摂食嚥下障害 質問シート」では、A評価がひとつでもあれば、
「摂食嚥下障害の可能性が高い」と評価されます。

図2:A評価がついた利用者における調剤状況(粉砕の有無)

図2:A評価がついた利用者における調剤状況(粉砕の有無)

第50回日本薬剤師会学術大会ポスター発表資料より
(フェイス調剤薬局 平松先生より提供)

嚥下体操については、10施設中7施設で行われていました。行っていない3施設においても「必要性は感じているが、時間や業務負担を考えると控えざるを得ない」との回答を得ました。施設内において薬剤を粉砕する明確な基準を設けているところはなく、粉砕の判定は介護スタッフさんや訪問看護師さんの主観によって決められていることが分かりました。

その結果についてどのように
考察されていますか?

薬剤師がご利用者さまの摂食嚥下障害を評価していくことは有用と考えられます。
A評価あり、すなわち「摂食嚥下障害の可能性が高い」方はもっと存在するのではないかと想像していましたが、本調査によって少なくとも、グループホームご利用者さまの3割程度に摂食嚥下障害が存在することが確認されました。そして、そのうちの61%の方は、粉砕調剤を希望されていないことも分かりました(ただしここにはOD錠などが選択されていたケースも含まれています)。やはり、施設における通常業務の中では摂食嚥下障害を見つけ出すことは容易ではないことが示唆される結果でした。

一方で、嚥下体操を実施したくてもできない施設の存在、また、いずれの施設においても粉砕をする明確な基準が存在しなかった現状から、薬剤師がご利用者さまの摂食嚥下障害を積極的に評価していくことは有用と考えられます。
現在、A評価があった人とそうでない人との間で背景比較を行っています。

今後、「摂食嚥下障害
質問シート」をどのように
ご活用されますか?

減薬や処方内容の見直しを医師に提案できるようになりたいと考えています。
摂食嚥下障害は、生理機能の低下だけではなく、薬剤によっても引き起こされます。抗コリン作用や抗ヒスタミン作用のある薬剤、向精神病薬・睡眠薬などによる薬剤性の摂食嚥下障害が知られています。私たちは、個々のご利用者さまに対して摂食嚥下障害の評価を行い、必要な方に対しては、減薬や処方内容の見直し(薬剤・剤形変更など)を医師に提案できるようになっていきたいと考えています。

また、摂食嚥下障害の存在は、薬剤だけでなく、食事内容の変更や嚥下体操などの実施の必要性、誤嚥性肺炎とのかかわりなど、ご利用者さまのケアにかかわる全職種において重要な情報となります。ケアマネージャーさんを中心に多職種で情報共有し、摂食嚥下障害に配慮した介護サービスが行われるようになることを期待しています。

フェイス調剤薬局でも、「摂食嚥下障害 質問シート」を、今回の検討の対象となったグループホーム以外の施設にもご紹介し、活用を進めています。今後、できるだけ多くの方々に対して、継続的に用いていきたいと考えています。

フェイス調剤薬局さまの
今後展望について
お聞かせください。

薬剤師の武器となるツールを増やしていきたいと考えています。
医療・介護の現場において薬剤師に求められることが増えています。そのような中、薬剤師が薬剤だけでなく、他のツールも武器として持っておくことは大変有効だと考えています。フェイス調剤薬局ではこれまでにも褥瘡や認知症対策について積極的に取り組んできました。そして次のツールとして、この「摂食嚥下障害 質問シート」を活用した摂食嚥下障害の評価を考えています。

介護の世界では介護スタッフさんのスキルがどんどん向上していることを実感しています。一緒に介護にかかわらせていただく私たちもレベルアップして、専門職同士、お互いに高め合いながら日本の高齢社会を支えていきたいと思っています。

「摂食嚥下障害 質問シート」を手に介護付有料老人ホームのスタッフの
方と情報交換

取材ご協力

フェイス調剤薬局
http://www.faith8981.co.jp/
〒454-0877
愛知県名古屋市中川区八田町2007番地
TEL:052-363-8981 FAX:052-363-8982

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