ご活用事例紹介
阪和第二泉北病院
08院内公募から始まった嚥下プロジェクトで地域医療に貢献
大阪府堺市 阪和第二泉北病院取材日:2024年11月12日
医療法人錦秀会 阪和第二泉北病院は、大阪府の中央南西部に位置する堺市(人口約84万人)で1980年に開院しました。現在、当院では全体の70%を占める療養病棟を始め、急性期一般病棟、地域包括ケア病棟等、全969床を有しています。主に老人医療を対象とした多岐にわたる疾患に対応できるようなケアミクス型の病院として「やさしく生命(いのち)をまもる」という理念のもと、幅広い医療ニーズに応えるため、医療・介護・福祉トータルでの提供を心がけています。
その一環として、2021年4月には摂食嚥下専門外来と嚥下リハビリ入院制度を立ち上げました。高齢者に多い摂食嚥下障害は誤嚥性肺炎や窒息など重篤な状態を引き起こす原因です。我々はこの障害に対し、早期に対応、フォローすべく嚥下障害関連の資格を持つスタッフを中心にチームを結成し、院内の取り組みはもちろん、地域を支える活動をグループ全体で進めています。
嚥下プロジェクト発足の経緯について教えてください
療養病棟に入院される患者さんの中には、急性期や回復期病院などで「食べるのは難しい」と判断された方でも「少しでも口から食べたい」、ご家族の中にも「少しでも食べさせたい」と希望される方は沢山いらっしゃいます。
このような患者さんに対して、これまでも多職種が連携して取り組むことで少しずつ食べられるようになったケースは経験してまいりましたが、嚥下に対する知識やスキルをもった専門チームを作ることで、「より多くの方の希望を叶えてあげられるのではないか」といった“想い”から始めたのがこのプロジェクトです。

リハビリテーション部 言語聴覚士
嚥下チームリーダー 垣内 公允 先生
このプロジェクトは、当時の院内公募で優秀賞として採択されて以来、現在で4年目を迎えていますが、「嚥下のことなら、阪和第二泉北病院」と言っていただけることを目標に、その活動を継続、拡充しているところです。
嚥下プロジェクトの具体的活動について教えてください
嚥下プロジェクトは、嚥下チームのコアメンバーが中心となって運営しています。以下に、その具体的活動を紹介します。
嚥下チームの設置について
嚥下チームは言語聴覚士をリーダーに置き、8職種、14名をコアメンバーとして結成されています。チームは嚥下プロジェクトの3本柱(①嚥下外来、②嚥下リハビリ入院、③嚥下FT(ファシリテータ)の育成)を中心に活動していますが、これらの広報活動を含め、いわゆる嚥下に関わる全ての活動を運営・マネジメントしています。
【チームメンバー】
<前列:左から>
言語聴覚士(ST)、歯科医師、外科医師、看護師
<後列:左から>
理学療法士(PT)、管理栄養士、作業療法士(OT)、
PT、看護師、薬剤師

①嚥下外来について
嚥下外来では、嚥下検査からリハビリや栄養アドバイスまで一つのパッケージで行っています。一度の来院で検査からアドバイスまで完了しますので、患者さんにも好評です。

嚥下外来を受診される患者さんには、予め「事前情報記入用紙」に記入をお願いしていますが、そこではスコア評価式質問シートを採用しています。
嚥下外来の開設は2022年3月ですが、受診者数は2022年度33件、2023年度53件でした。

②嚥下リハビリ入院について
4週間の嚥下に特化した入院プログラムです。PT、OT、STによるリハビリテーションや歯科衛生士による口腔ケア、患者さん本人が自ら嚥下関連グッズを用いる自主練習のフォローなどを手厚く、集中的に実施します。外来でもリハビリは行いますが、それだけでは不十分な場合の選択肢として用意しています。嚥下リハビリ入院では、退院後も自身で継続できるようなプログラムも取り入れています。



③嚥下FT(ファシリテータ)の育成

嚥下外来やリハビリ入院より一足早く取り組んでいるのが、嚥下FTの育成です。各職種が有する専門性に嚥下のスキルをプラスすることを目標に約1年間、嚥下のことを学ぶ病院独自の認定制度です。嚥下の基礎を学ぶBasicコース(22コマ19時間)、より実践的なAdvanceコース(10コマ8時間)から構成されています。毎年4月に職種不問で公募します。5月~1月に受講、3月の認定試験を経て、認定証とバッジを進呈する流れになっています。
3年目からはグループ病院にも公募を行うようになりました。4年の累計で84名(9職種)の認定者を輩出しています。修了後は、各職場で嚥下アドバイザーとして活躍しています。中には認定看護師など、公的資格の取得を目指している方もいらっしゃいます。


今後の展望や活動について教えてください
院内公募から始まった「嚥下プロジェクト」も4年目を迎えて、相応に体制も整いつつありますが、まだまだ課題も少なくありま せん。また、今後を展望する際には、地域との関わりや連携という視点が、より重要だと感じています。

嚥下チームの活動について
前述の3本柱(①嚥下外来、②嚥下リハビリ入院、③嚥下FT)の充実はもちろんなのですが、摂食嚥下障害が有する特性上、地域、多職種との連携も欠かせません。そのためには、嚥下チームの拡充が必要です。入退院支援センターや開設予定の訪問看護ステーションとも連携しながら、嚥下とそれらを取り巻く周辺環境の改善に取り組んでいきたいと考えています。
①嚥下外来について

歯科口腔外科 部長 小野 雄大 先生
嚥下外来の患者さんは年々増えてきていますが、どうしても受診のタイミングが遅れがちです。また、経過観察や診療後のフォローも十分とは言えません。早期受診から介入後のフォローまで一貫したしくみやそのしくみを支えるコミュニケーションが必要だと思います。また、より早期の患者さんは病識に乏しい傾向にありますので、市民やそこに関わる人たちへの啓発活動も併せて考えていかねばならないと思います。
②嚥下リハビリ入院について
現在は一つの病棟をモデル病棟として運用していますが、将来的には他病棟からの転床や病棟拡大を展望しています。ただ、当該病棟で行うアセスメントやリハビリプログラム、病棟間の連携や人的配置など、改善すべきポイントも多々あるため、試行錯誤しているところです。
③嚥下FTについて

薬剤部 主任 橋本 祐子 先生
受講には本人のモチベーションに加えて、職場の理解、協力が欠かせませんが、現状ではその体制が十分とは言えません。受講後のフォローも含め、改めて、グループ全体での環境醸成や制度設計が必要なステージに入っていると考えています。
カリキュラムのブラッシュアップも必要です。例えば、高齢化、 多剤併用とともに増えている薬剤性嚥下障害など、嚥下を取り巻く環境変化にあわせて、講座内容も更新していこうと考えています。薬剤師任せではなく、各職種が薬剤に対する意識や知識を高め、受講後も各職場で薬剤師と情報連携できるようになれば、病院全体の質的向上にも繋がるのではないかと思っています。
「スコア評価式質問シート」の評価や今後の活用可能性について教えてください
現在、当院では嚥下外来受診者の事前問診用として活用していますが、嚥下外来に関わるどの職種の方からも「わかりやすい」といった声をいただきます。
この質問シートは日本で開発されたものなので、質問の意味も理解しやすく、共通言語としてどの職種の人にも使いやすいのだと思います。また、ご家族や介護者などによる観察式での実施も可能ですので、活用の幅も広くなります。
今後は入院時や入院中の定期評価、一般の外来に活用したり、連携する施設や医療機関でもと同じ質問シートを用いるようになれば、普段の情報共有も効率化できますし、受診勧奨の指標にも利用できるのではないかと考えています。

最後に地域との関わりや連携について教えてください
まずは当院の活動や取り組みを広く認知いただくことが重要です。これまでも、嚥下チームが中心となって広報活動は行っていて、タウン誌や地方紙にも取り上げていただいたり、産学連携や研究発表等、様々な活動も行っていますが、まだまだ十分ではありません。
摂食嚥下障害で困っている方、重度の方への対応も重要ですが、より早い段階からの介入も非常に重要です。そのためには、患者さん、ご家族に限らず、広く住民への啓発と医療、介護、福祉全ての関係者間の連携が不可欠です。阪和第二泉北病院として、そしてグループとして、その一翼を担えるよう邁進します。

院長 井上 雅智 先生
取材ご協力
医療法人 錦秀会
阪和第二泉北病院
〒 599-8271
大阪府堺市中区深井北町3176番地
TEL:072(277)1401