ご活用事例紹介
江東病院

09窒息・誤嚥防止対策に対する当院の取り組みと「スコア評価式質問紙」の活用について
東京都江東区 江東病院取材日:2025年9月10日
1) 病院の概要と特色を教えてください。
江東病院は1955年(昭和30年)に開設された地域密着型の総合病院で、地域の皆様の一般的な病気やけがの診療を行うほか、小児を含む救急診療にも力を注いでいます。急性期病棟256床に加えて回復期リハビリテーション病棟30床の合計286床の中規模病院ですが、「東京都災害拠点病院」や「新型コロナ重点医療機関」としての対応も行っています。
また、地域の病院や開業医の先生方との連携にも意欲的に取り組んでいます。その他、病院では訪問看護ステーションや介護老人保健施設、在宅診療所の運営なども行っており、外来、入院治療にとどまらず、高齢期の患者さんに対するシームレスなサポート体制構築に取り組んでいます。
2) 窒息・誤嚥防止対策に取り組んだ目的と背景について教えてください。
2022年の初め、当院で食物による窒息という重大インシデントが発生しました。その後の検証で、救急担当医師の退職やコロナ禍に伴う救命研修の停滞、元来からの緊急要請コールの鮮少、組織的な救命処置の脆弱性等、複数の問題点が確認されました。加えて、職員の窒息・誤嚥防止に対する危機意識の低さも明らかになりましたので、医療安全管理室が中心となり、窒息・誤嚥時の対応及び防止対策の取り組みを開始しました。
3) 窒息・誤嚥防止のための取り組みについて教えてください。
窒息・誤嚥防止対策については、摂食嚥下リンクナースチームを結成し、各部署での問題点の共有、改善策を検討しました。以下は、その際に抽出された問題点とその対策です。
①緊急コールでの応援要請の少なさによる対応の遅れ
緊急コールでの応援要請は1~2回/年に止まっていたことから、24時間365日対応のコードブルー(99番)やコードホワイトなど、緊急コール体制の見直しとともに、窒息・誤嚥時の緊急時対応フロー(左図、参照)を作成しました。
②救命救急体制の脆弱性
救命救急体制の整備については、職員の意識や知識向上を意図して、事務員、看護補助者を対象にした普通救命講習会と医療従事者を対象にしたBLS研修、ICLS認定コースを年単位で開催するようにしました。
※BLS:Basic Life Support(一時救命処置)
※ICLS:Immediate Cardiac Life Support(心肺停止に対する救命処置)
③窒息・誤嚥のハイリスク患者のアセスメント不足
この問題については、聖隷式嚥下質問紙が原型となっているスコア評価式質問紙の導入で対応するようにしました。
スコア評価式質問紙を採用した理由は、以下のとおりで、導入時は予定入院患者の全例に、現在は入院患者全例に実施するようにしています。
※スコア評価式質問紙の導入理由について
- エビデンスがあり、汎用されている
- 非侵襲で、誰でもどこでも実施可能
- 感度・特異度が高い
- 質問内容が分かりやすい
- 結果がスコアで確認できる
- 自答困難な場合でも、10問での観察式
での実施が可能
④食事形態の選択を個々の看護師の経験値に頼っている
この問題については、チームで窒息・誤嚥ハイリスク患者スクリーニング後のフロー(下図、参照)を作成し、個々の看護師に依存するのではなく、より抜け・ムラのない体制づくりを目指しました。
当院では入院患者に対して、予めスコア評価式質問紙の記入をお願いしていますので、入院の時点にはそのスコアが確認できるしくみになっています。
その結果が4点以上の場合は、予め、食形態での摂取状況の確認とアセスメントを行い、入院の段階で看護計画を立案するようにしています。
入院後も随時、食事時の見守り、観察を行い、むせ・咳・声の変化・痰がらみ等の有無を確認するようにしています。その状態によって、STの介入や食事形態の見直しを合同カンファレンスで検討・対応するようにしています。
また、観察時に問題が見られない場合でも、入院中、週に1回はスコア評価式質問紙を実施するようにしています。
このフローが定着するまでには、相応の時間を要しましたが、医療安全管理委員会のメンバーや関係スタッフの理解や協力と多職種による勉強会の開催により、今では、入院患者のほぼ全例での対応が可能になりました。
4)スコア評価式質問紙の実施状況について教えてください。
スコア評価式質問紙を用いたスクリーニングを開始したのは2022年11月からです。以下に年度単位の実施対象者数とスコアの分布を一覧化しました。
【年度別スクリーニング実施状況】
【スコア評価による分布(累計)】
データ集計を開始した2022年12月から2025年9月までの累計実施人数は、延べ22,439人でした。この人数は、同時期の入院患者数の96.5%に当たります。開始した当初は実施率も89.4%でしたが、3年目となった今年度は99.6%まで向上しています。背景には「摂食嚥下リンクナースチーム」の結成、「窒息時対応フロー」や「窒息・誤嚥ハイリスク患者スクリーニング後のフロー」を用いたしくみづくり、研修会やカンファレンスの開催、そして、それらを総合的に推進、継続できていること、そして、その経過や成果を常にデータとして、病院全体に見える化してきたことが、今の結果に繋がっているのではないかと考えています。
さて、スコア評価の結果ですが、年度で大きな変化は見られず、累計で3点以下が51.9%、4~7点19.2%、8点以上が27%、おおよそ5:2:3の割合でした。当院では16歳以上の入院患者全例を対象としているため、このような結果になっていますが、やはり高齢者、特に70歳を超えた辺りから8点以上の割合が急激に高くなっています。
当院の入院患者は小児科を除いて、どの病棟、診療科でも高齢者は増加傾向で、このような誰でもどこでもできて、指示の入らない方にも対応できるスクリーニングは有用だと思います。
5) 窒息・誤嚥防止対策について、ここまでの活動成果について教えてください。
取り組み開始後、2022年5月~2024年1月までの窒息・誤嚥のインシデント報告は11件でしたが、重大インシデントはありませんでした。
緊急要請コール回数は24件、うち窒息・誤嚥は4件でした。以前は窒息・誤嚥インシデントは報告件数0件でしたが、取り組み後は11になっています。これは、これまで潜在化していた事象をインシデントと捉え、窒息に対する危機意識から顕在化した結果ではないかと推測しています。
この取り組みや経過・結果については、医局会や医療安全管理委員会等で、随時共有されました。それによって、医師はもちろん、病院全体で窒息・誤嚥防止に対する意識や関心が高まってきたと感じています。窒息・誤嚥防止対策は多職種で継続的に取り組んでいくことが重要ですので、2024年からは多職種での勉強会も継続的に開催しています。
6) 窒息・誤嚥防止対策についての活動と今後の展望についておうかがいしました。
当時、私(梶原一院長)は、医療安全対策委員会の委員長として関わっていましたが、この取り組みと成果については、医療安全管理者の横川副看護部長はじめ、医療安全管理室が病院全体を巻き込んで取り組んだ結果によるものだと評価しています。
光栄なことに、患者安全行動計画「第1回医療安全全国共同行動ベストアクション※」にも選出いただきました。
病院の位置する江東区は、高齢者比率自体は20.9%(令和5年度)と必ずしも高いわけではありませんが、総人口も増え続けていますので、比例して高齢者も増加しています。特に、近年は誤嚥性肺炎で入院される患者、あるいは誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんも増えています。
梶原一病院長
今後も院内の仕組みや研修体制などは引き続き、充実していかねばなりませんが、地域の中核的な病院として、地域全体の窒息・誤嚥防止対策についても役割を果たしていきたいと思います。
※第1回 医療安全全国共同行動ベストアクションとは
一般社団法人 医療安全全国共同行動では、医療の質・安全の向上を目指す日本全国の優れた取り組みの普及・啓発を図るため、「第19回医療の質・安全学会学術集会」賛同のもと、同団体が掲げる患者安全行動計画(8分野12項目)に沿った取り組みを実施し、成果を上げた方を「ベストアクション実施者」として表彰しています。
江東病院の取り組みは、「行動計画6:療養における安全確保」に沿った優れた取り組みとして受賞されています。
窒息・誤嚥防止対策チームの皆様
後列左から管理栄養士、管理栄養士、理学療養士
前列左から看護師、横川忍副看護部長、言語聴覚士
【参照:一般社団法人「医療安全全国共同行動」ホームページ】

〒136-0072
東京都江東区大島6-8-5
社会医療法人社団 順江会
江東病院
