ケア・対処・訓練法
食道を鍛える「腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)」とは
どのような訓練ですか?
嚥下障害の原因が、食道にある場合があります。これは、加齢や病気の影響で食道の動きが悪くなることが関係しています。その結果、食道に食べ物が残ったり、胃から逆流したものが咽頭まで戻り、誤嚥につながることがあります。
「腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)」は、仰向けに寝て腰の下に枕やクッションを入れて、腰を少し上げた姿勢をとり(腰上げ姿勢)、その状態で唾液を飲み込む(空嚥下)ことで、食道を鍛える訓練です。
※腰に痛みがある方や体に不安がある方は、この訓練を行う前に医師にご相談ください。
※訓練の方法とポイントはこちらから
はじめに
筆者は子どもの頃、遊び半分で逆立ちした状態でも食べることができた経験がありました。浜松市リハビリテーション病院の藤島一郎先生と居酒屋で「人は、逆立ちしてもなぜ飲み込めるのか?」について大真面目に議論したのですが、「まずはやってみよう!」と筆者が被検者となり、逆立ちした状態で嚥下造影検査を行いました。
(頭に血が上って大変でしたが)食道が食塊を胃に送り込むため、繰り返し強く“ぎゅーっ”と収縮している様子がとても印象的でした。「こんなに強く収縮するなら、食道を鍛えることができるかもしれない!」と考えたのが、この嚥下訓練法です。
食道期の障害による問題点
食道は蠕動運動によって食べものを胃の中に送り込みます。また、食道と胃の境目にある下部食道括約筋という筋肉は、胃の内容物が食道に逆流しないようにする働きがあります(図1)。
しかし、この蠕動運動が弱くなったり、下部食道括約筋がうまく働かなくなると、次のようなさまざまな問題が起こることがあります。
- 食道に残留した食べ物や胃から逆流したものが咽頭まで戻り、誤嚥性肺炎や嘔吐を引き起こすことがあります。
- 食べ物が食道をスムーズに通らないと、食欲低下や栄養不足になりやすくなります。
- 薬剤が食道内に残ると、吸収されず薬の効果が安定しなかったり、食道の粘膜を障害することがあります。
- 下部食道括約筋がうまく機能しない場合、逆流性食道炎の原因となります。

図1 食道の蠕動運動と下部食道括約筋
蠕動運動によって食塊を胃内に送り込む。下部食道括約筋の働きにより、胃の内容物が食道内に逆流するのを防止している。
経鼻胃管や胃ろうから栄養を行っている患者さんでも、食べ物を摂取していないのに誤嚥性肺炎を繰り返すケースがあります。このような場合には、食道機能の問題が関係している可能性があります。したがって、嚥下障害の診療では食道の働きを確認することがとても重要です。
食道を鍛える訓練-腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)
食道の問題に対しては、食後すぐに横にならず、立つ、座るなどの姿勢を保つ、夜間はベッドを少し起こした状態(ギャッジアップ)で寝る、といった対応が効果的ですが[1]、私たちは食道を鍛える新しい方法として、「腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)」を考案しました。

腰上げ姿勢(ブリッジ姿勢)が食道に与える影響
腰上げ姿勢(ブリッジ姿勢)で嚥下すると、食道は重力に逆らって食べ物や唾液を胃に送るために強く収縮します(図2)[2]。更に、胃の内容物が食道に逆流しないように、下部食道括約筋の圧が高まります。この姿勢で一定期間、唾液の嚥下(空嚥下)を繰り返すと、強い蠕動運動が起こり下部食道括約筋の圧も高くなるため、食道を鍛えることができます[3, 4]。 訓練の前後で行った食道期の嚥下造影検査では、訓練後に食道内の残留が減っています(動画1)。

図2 食道内圧検査を用いた食道機能評価
蠕動運動の収縮力と、下部食道括約筋の圧(LES圧)を食道内圧検査で評価したもの。左から座位→仰臥位→腰上げ姿勢(ブリッジ姿勢)の順に嚥下時の蠕動運動が強くなりLES圧も高くなる。赤いほど圧が高い(圧の高さ:緑<黄<赤)。
※LES:lower esophageal sphincter
※腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)の表記について
筆者らは、腰を上げた姿勢での嚥下をブリッジ嚥下(bridge swallowing)と命名して、学会や論文で発表しました。しかし、実際に患者さんに指導する際には、「ブリッジ姿勢」よりも「腰上げ姿勢」と指導した方が、誤解がなく伝わります。また、この訓練では唾液の嚥下(空嚥下)を行いますが、「空嚥下」と説明しないと、「腰上げ姿勢で食べなければならない」と誤解される可能性があります。
従って、下記のように整理するとよいでしょう。
- 意味:腰上げ空嚥下訓練=ブリッジ空嚥下訓練
- 表記:腰上げ空嚥下訓練(ブリッジ空嚥下訓練)
患者さんへの指導や医療者間でのやり取りでは「腰上げ空嚥下訓練」を用いると、より誤解なく伝わるでしょう。
【監修】
岐阜大学医学部附属病院 脳神経内科
浜松市リハビリテーション病院 リハビリテーション科
國枝 顕二郎
参考資料
- 青山 圭,國枝 顕二郎,藤島 一郎.嚥下食道期の評価法.嚥下医学.2023, 12(2): 165-171.
- Aoyama K, Kunieda K, Shigematsu T, et al. Effect of Bridge Position Swallow on Esophageal Motility in Healthy Individuals Using High-Resolution Manometry. Dysphagia, 2021, 36(4):551-557.
- Aoyama K, Kunieda K, Shigematsu T, et al. Bridge Swallowing Exercise for Gastroesophageal Reflux Disease Symptoms: A Pilot Study. Prog Rehabil Med. 2022, 7:20220054.
- Nishimura T, Kunieda K, Aoyama K, et al. Efficacy of the Bridge Dry Swallowing Exercise for Refractory Gastroesophageal Reflux Disease. Intern Med, 2024 [Online ahead of print].