ご活用事例紹介
マツダ病院

10摂食嚥下センターが目指す地域連携と「スコア評価式質問紙」の活用可能性
広島県安芸郡 マツダ病院取材日:2026年8月7日
病院の概要について
マツダ病院は、広島県安芸郡府中町の自動車メーカーであるマツダ株式会社を運営母体とする266床(急性期病棟162床、地域包括ケア病棟55床、回復期リハビリテーション病棟49床)の中規模病院です。
当院が立地する広島市東部地域の特性やニーズの変化に対応し、地域連携の強化やリハビリテーションの充実などを進め、医療の質向上に取り組んでいます。特に摂食嚥下リハビリテーションの領域では、専門的な評価・訓練、退院後の療養支援体制の強化を図ってきました。
摂食嚥下センターを立ち上げた背景・経緯について
高齢者医療や在宅医療により、摂食嚥下障害を有する患者さんの食支援、誤嚥性肺炎予防は、これまで以上にその重要性が高まっています。センター設立前より積み重ねてきた実績をもとに、医師や歯科医師を始め、多職種で構成されるメンバーで体制を強化し、地域の医療機関の皆様とともに患者さんやご家族のニーズに応えるべく、2025年6月に県下初となる「摂食嚥下センター(以下、センター)」を開設しました。
センターの組織と活動について教えてください
1)院内における組織・しくみづくりについて
当センターの前身は、2008年8月に栄養サポートチーム(NST)活動の一部として始めた嚥下機能評価です。当時は院内に摂食嚥下に関して専門的に携わる医師が不在だったため、自ら専門書や学会、講習会に参加し研鑽を深め、この仕事に携わるようになりました。当初は歯科医師、歯科衛生士のみという限られたメンバーでしたが、現在のセンターでは8職種が連携して診療にあたり、患者さん一人ひとりの状態に応じたオーダーメイドの治療プランを提供し、QOL(生活の質)の向上を目指しています。なお、センターでは、独自の対応として外来での嚥下機能評価の他に、より多角的な視点から評価を行う「嚥下機能評価入院(原則2泊3日)」や「嚥下リハビリテーション入院」も行っています。
摂食嚥下センターの皆様
左上から:薬剤師、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士
左前から:認定看護師、医師(耳鼻咽喉科)、歯科医師(センター長)、医師(耳鼻咽喉科)
2)院内外連携とその役割について
摂食嚥下障害には様々な要因があり、進行すれば根治は難しくなります。また、誤嚥性肺炎や栄養状態悪化で生命に関わる重大な問題を引き起こす可能性もあります。それだけに、多職種や地域で包括的、継続的に支える体制が必要です。当センターでは、そのような疾患特性を踏まえ、院内外と連携して、地域の摂食嚥下障害患者さんの早期発見と適切な診療環境醸成の役割を果たしたいと考えています。
①院内連携について
摂食嚥下障害は全身状態や精神症状に左右されることが多々あり、院内各科との連携は不可欠です。また医療チーム、特に栄養サポートチーム(NST)との連携は重要で、患者さんの情報共有はもちろん、カンファレンスや勉強会などを通じて、人や組織が変わっても継続性・持続性のあるしくみづくりを意識しています。
②急性期病院との連携について
他の急性期病院から、誤嚥性肺炎やその他の疾患で摂食嚥下障害の残存があり、継続的なリハビリテーションが必要な患者さんの受入れも行っています。治療内容やリハビリテーションの進捗状況を詳細に引き継ぎ、患者さんがスムーズにリハビリテーションを継続できるよう支援しています。
③地域医療機関との連携について
摂食嚥下障害患者さんの治療は入院期間中に完結できないことも多々あります。そのような場合は、当院の「地域連携センター」とともに、地域の医療機関や介護施設と情報を共有し、連携を深めることで、退院後もより質の高い医療サービスの提供を目指しています。
当センターでは「嚥下リハビリテーション入院」も行っていますが、別途、嚥下リハビリテーション計画の立案や支援も行っています。その他、「在宅カンファレンス」や「地域勉強会」など、地域の多職種、医療・介護・福祉との連携を心がけています。
センター設置前後の状況について教えてください。
① 紹介診療科や患者さんの動向について
センター開設前後の紹介診療科及び患者数の動向について調べたところ、センター開設前の5か月と開設後の10か月では、患者数が月平均で74.5%、紹介元も9科から13科に増えました。これまでも、摂食嚥下には積極的に取り組んでいましたが、やはりセンター化による認知度向上が影響しているものと思われます。
② 紹介元・転帰先について
開設前後では、紹介元、転帰先ともに「自宅」が最も多く、かつ増加率も高くなっています。当センターでは在宅復帰を一つの目標にしているので、この時期にあっては、一定の成果が得られているものと認識しています。
一方、療養型病院・施設への転院・転所も増えています。これは、そもそも全体の患者数が増えていることにも起因するのですが、それ以上に患者さんの高齢化、重症化が大きな理由になっているものと考察しています。重症例については、在宅にお戻しするのが困難なケースや予後を見極める意味もあって療養型の病院等を選択するケースが多くなってしまいます。摂食嚥下障害のマネジメントには、地域連携の一つとして、病院間の連携・役割分担も不可欠と考えています。
スコア評価式質問紙の導入背景と活用方法について教えてください
摂食嚥下障害は、早期発見・対応が重要ですが、そのためには、より患者さんに近い場所での「気づき」、そして「連携」が欠かせません。当センターでは、ホームページ上にスコア評価式質問紙を掲示(下図)しています。
地域には、医科・歯科診療所の他にも、より生活者に近しい機関・施設が多数あります。質問紙は簡易で、専門的なスキルも必要とせず、第三者による評価も可能なので、「ひょっとしたら」、「これって病気のサイン!?」など、本人あるいは第三者の判断材料の一つとして活用いただければ、と考えています。
現状、まだまだ認知度が低く、スコア評価式質問紙を使用した相談件数は少ないのですが、直近では、胃瘻(いろう)の患者さんが、本スクリーニング実施をきっかけに、当センターの嚥下リハ入院に至り、患者さん自身がバルーン拡張訓練を習得し、在宅でも訪問看護・リハを継続、その後、胃瘻からの離脱に成功した事例を経験しました。
摂食嚥下障害の治療やリハビリテーションは、長くかかることも少なくありませんので、患者さんにより近い医療機関や施設との信頼関係や連携の中での継続性が、大変重要だと考えています。このケースは、質問紙がきっかけで病院と地域が繋がった貴重な事例となりました。
このように、スコア評価式質問紙は「気づき」を促すとともに、センターとのコミュニケーションツールとしての役割も果たしてくれるのではないかと期待しています。
今後の展望
1)摂食嚥下センターの今後の活動について教えてください
摂食嚥下センターを開設して1年経過したところですが、まだまだ認知度も含め、地域とのコミュニケーションや啓発活動の必要性を感じています。2026年2月にも安芸郡を対象とした研修会に参加しましたが、今後も院内外連携をさらに強化し、病院全体で地域医療に貢献できるよう、スタッフ一同全力を尽くしてまいります。
摂食嚥下センター長 歯科口腔外科部長 有田裕一先生
2)病院からみた摂食嚥下センターの位置づけや可能性について教えてください。
マツダ病院では2026年度から、4年間を対象とした新しい中期経営計画に着手しています。この計画は、たとえ地域の医療提供体制に大きな変化があったとしても、地域の皆様が安心して暮らせる環境を提供し続けられるよう、病院の次世代を担う職員とともに策定したものです。
その計画にもあるとおり、当院は従来の急性期中心から回復期そして在宅・社会復帰までを見据えた「切れ目のない医療提供体制」づくりへ舵を切りました。「摂食嚥下センター」の開設もその一環です。今後も充実した医療体制のもと、さらに多職種が連携し、地域とともに暮らし支える医療を目指しています。
マツダ病院 病院長 田村徹先生
